高性能なのに「やられ役」… 『ガンダム』連邦軍の量産機「ジム」は強いのか弱いのか?
『機動戦士ガンダム』作中でガンダムの量産機として登場する「ジム」は、ビーム兵器を搭載し、ガンダムと大差ない性能なのですが、劇中描写は「やられ役」です。アムロの戦闘データも入っている機体ですが、実際はどの程度の実力なのでしょうか。
ジオンの「何と互角なのか」で考える

『機動戦士ガンダム』で地球連邦軍は「ガンダム」を量産化したモビルスーツ(MS)「ジム」を大量に投入します。「ジム」の性能はかなり高く、元になった「ガンダム」と比べても、ほぼ対等で、ジオン軍の主力MSと比べても勝っているように思えます。
「ガンダム」:
頭頂高18m、ジェネレーター出力1380kw、推力55500kg、センサー有効半径5700m、全備重量60t(推力重量比0.925)
「ジム」:
頭頂高18m、ジェネレーター出力1250kw、推力55500kg、センサー有効半径6000m、全備重量58.8t(推力重量比0.943)
「ザクII(F型)」:
頭頂高17.5m、ジェネレーター出力976kw、推力43300kg、センサー有効半径3200m、全備重量73.3t(推力重量比0.591)
「リック・ドム」
頭頂高18.6m、ジェネレーター出力1199kw、推力53000kg、センサー有効半径5400m、本体重量78.6t(推力重量比0.674)
「ゲルググ」:
頭頂高19.2m、ジェネレーター出力1440kw、推力61500kg、センサー有効半径6300m、本体重量73.3t(推力重量比0.839)
「ジム」は「ガンダム」と比較しても、推力重量比で上回るので運動性で優位にあり、センサー範囲でも上回るので、射撃戦で優位になるはずです。ジオンのMSと比較すると、「ゲルググ」系以外にはスペックで勝っており、「ゲルググ」に対しても推力重量比では上回っているため、運動性では勝っているようにも感じられます。
しかし劇中描写を見ると、「ガンダム」の性能に驚くジオン兵はいても、「ジム」の性能に驚くジオン兵は見られません。どのジオン軍MSに対しても明確な性能優位は描かれてはいませんでした。果たして、「ジム」は強いのでしょうか、弱いのでしょうか。
「ジム」は「ガンダム」の量産型で、ニュータイプパイロットであるアムロ・レイの戦闘データが入っているという設定ですが、劇中描写を見る限りでは「強いとは思えない」のです。
アニメ『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』では、陸戦型ジムから陸戦型ガンダムに乗り換えたサンダースが、性能差に驚く場面もあります。こちらも陸戦型ジムと陸戦型ガンダムの発表されているスペックは大差なく「カタログスペックが当てにならない」ことがわかります。
実際、一年戦争から4年後の『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』で、地球連邦軍は「ジム」系MSを新型機に入れ替えています。大量に作った「ジム」が「ガンダムと大差ない有力な量産機」なら、そうはならないでしょう。
恐らく「ジム」は、スペックほど強くないのでしょう。「初めての量産型MS」であることから「ガンダム」をコストダウンする設計に無理があり、粗製乱造もあって「予定された性能」を発揮できていないとも考えられます。アムロの戦闘データも「ガンダムの性能が前提」で、ジムでは再現不能のものが多いということもありえるでしょう。
また、装甲材を低性能のチタン・セラミック複合材にしたこともあり、「ザクII」のマシンガンでも「当たればなんとかなる」程度の防御力ということもあります(シールドだけはルナ・チタニウムという説もありますが)。「ジム」の主兵装である「ビームスプレーガン」は、中距離以上では威力が著しく低下するという問題もあるようで、射撃戦ではジオンのMSに撃ち負けたのだと思います。
また『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』に登場するMSの推力が、他作品の同系統MSよりやたらと高く、やや不自然であることを考えると、発表された「スペック」は「標準的な計測・使用環境」によるもので、アメリカ軍戦闘機の「戦時緊急出力」のように、リミッターを外した短時間のみ、より高性能を発揮できるという解釈も考えられます。
この場合『0080』機の高い推力スペックは「リミッターを外した場合」ということです。そう解釈すれば、他の機体との整合性が取れます。このような「リミッターを外した時の性能余力で、ガンダムはジムに大きく勝るので、発表されたカタログスペック以上の性能差がある」と考えると、「ガンダムにだけ驚くジオン軍」を理解できるものと考えます。
結論としては「一年戦争中のジムは未完成」ということです。実際、続編『機動戦士Zガンダム』に登場する「ジムII」は、一部が「ジムを近代化改修した機体」という設定です。「ジムクゥエル」などの新規設計機があるのに、「ジム」の近代化改修が合わせて進められる程度には、「ジム」の潜在能力が高く、手をかければ強くなる余地があったか、間に合わなかったから、一年戦争時は弱かったということではないでしょうか。
(安藤昌季)