『ガンダム』ジオンは南極条約をなぜ結んだ? メリットがない条約の「大胆考察」
『機動戦士ガンダム』では、地球連邦とジオン公国の間で「南極条約」という戦時条約が結ばれます。核兵器やコロニー落としを禁止する条約ですが、当時のジオン軍は圧倒的優勢です。なぜこんな条約を結んだのでしょうか。
「ジオンに兵なし」に疑問があるとしたら?

『機動戦士ガンダム』の冒頭で、宇宙都市スペースコロニーが地球に落下します。ジオン公国は地球連邦軍本部がある南米のジャブローに、長さ40km、直径6.4kmとも言われる巨大なコロニーを落とそうとしたのです。
地球連邦艦隊による抵抗で、コロニー落としは失敗。オーストラリアのシドニーに落ちます。大陸の16%が消滅し、大気圏で分解したコロニーの残部のうち、3分の1が太平洋に、残りが北米大陸に落ちました。ジオンは再度、コロニーを落とそうとして「ルウム戦役」となります。ジオンが勝利し、地球連邦艦隊は8割を失いますが、ジオン軍の被害も大きく、コロニー落としを断念しました。
ジオンは勝利を背景に、連邦に降伏を迫りますが、捕虜の連邦軍最高指揮官レビルが脱走し、「ジオンに兵なし」と、ジオンの内情を演説したのです。連邦の降伏は撤回され、コロニー落としや核兵器使用を禁止する戦時条約「南極条約」が結ばれます。
改めて見ると、筆者はこれを不思議に感じます。レビルの「ジオンに兵なし」は事実でしょうか。宇宙世紀0079年1月31日に南極条約を結んだジオン軍は、2月から、月面のマスドライバーで地球上を爆撃しつつ、3月~5月(諸説あり)に降下部隊により、地球各地を制圧しましたが、連邦は阻止できませんでした。
ちなみにジオンが11月のオデッサ作戦に投入した戦力は、総兵員数90万人、戦闘車両3500両以上、モビルスーツ(MS)1100機以上、火砲1万門、航空機1900機以上と巨大な勢力で、これらがジオン本国から地球に送り込まれたわけです。本国から地球までの補給線が保たれ、制宙権もジオン側になければ不可能でしょう。このような制宙権が得られているのなら「南極条約を結ばず、マスドライバーなどで地球を核攻撃し、再度コロニー落としをしてジャブローを破壊」した方が、ジオン勝利は確実でしょう。
そう考えると「ジオンに兵がないから、南極条約を結んだ」という説明は不十分で、別の要因もあるのではないでしょうか。例えば「地球連邦に所属しながらジオンに協力する旧国家の干渉」があったとも考えられます。
具体的には旧アメリカです。大気圏で分解したコロニーのうち、3分の2が北米に落ちていますが、北米はジオンに敵対的な態度を取っていません。むしろジオン軍司令官のガルマに、市長令嬢のイセリナを始め、多くが好意を示しています。ガルマ戦死後に、民間人のイセリナが行おうとした仇討ちに多くのジオン軍兵士が協力しており、表面上の付き合いには見えませんでした。ザビ家に旧アメリカとの人脈があり、現地が一年戦争前からジオンに協力していたから「占領統治やコロニー内では訓練できないであろう、潜水艦隊や空軍を保有・運用できた」とも想像できるわけです。
特に「マッド・アングラー級潜水艦」はジオン風デザインで、かつMS・MAを艦内収容できるわけで「連邦軍潜水艦を短期間で改装した」とは考えにくい部分もあります。開戦前からジオンに協力し、兵器を開発していたとすれば、理解しやすいでしょう。
また、宇宙世紀に登場するさまざまな兵器を製造してきた超大企業「アナハイム・エレクトロニクス」は、もともと「北米に本社を置く家電メーカー」です。そして連邦内で、旧アメリカが主導権を握っていないのは、首都がアフリカのダカールにあることでもうかがえます。つまりアナハイムや旧アメリカなどが、ジオンと組んで連邦打倒に動いた。だからジオン軍は方針を地球侵攻作戦へとすぐ切り替えられ、必要な兵器を地球上でも作れた……と想像できるのです。
そして「旧アメリカなどがジオンに協力していたから、ジオンは南極条約を結んだ」とも考えられます。コロニー落としで北米にも破片や津波が降り注いだからから、旧アメリカはコロニー落としや核兵器禁止をジオンに要求し、資源確保や、勝利後の統治体制を考えたジオンは拒否できなかったのではないかと考えます。
その傍証は『機動戦士ガンダム0083』で、デラーズがコロニーを落としたのがジャブローではなく、北米ということです。デラーズは「南極条約違反の機体」として、アナハイム製の「ガンダム試作2号機」を晒しものにし、シーマがアナハイムに「月にコロニーを落とす」と脅しをかけてもいます。
デラーズの認識が「お前たちアメリカが横やりを入れて、南極条約を結ばせたからジオンは負けたのだ」というものであれば、北米へのコロニー落としは地球の穀倉地帯潰しだけでなく「報復」という意味合いとなります。この恫喝(どうかつ)を受けたアナハイムは、ジオンへの協力を止められず、『機動戦士ガンダムUC』までジオン系MSを作り続けた、とも考えられるのです。
(安藤昌季)