『Zガンダム』リック・ディアスの命名には駆け引きがあった? 「ガンダム試作計画」でぶつかり合う思惑
『Zガンダム』のエゥーゴ勢力を代表するMS「リック・ディアス」は、当初「γ(ガンマ)ガンダム」と名付けられそうになりました。命名をめぐるやりとりの裏側には、連邦とスペースノイド双方の政治的意図がありました。
表向きの理由は「ガンダムの名を使うのは先代に申し訳ない」だったが

『機動戦士Zガンダム』のなかでも、エゥーゴのモビルスーツ(MS)「リック・ディアス」は印象深い機体です。物語の実質的な主役でもあるクワトロ(シャア)が搭乗するMSで、赤い塗装から誰が見ても「シャア専用」だとわかり、インパクトがありました。
『機動戦士ガンダム』の続編として、スポンサーを安心させるために「リック・ドムを踏襲したデザイン」のMSでしたが、メカデザイナーの永野護氏が「新しいガンダム」としてコンセプトデザインした先鋭的な機体が元であることもあり「これはMSじゃない」と当初は反発を受けていました。
そうした経緯があるデザインだからか、作品内の機体設定も「γ(ガンマ)ガンダム」と名付けられそうになったという内容です。
リック・ディアス自体は、宇宙世紀0085年から旧ジオン公国系技術者が中心となって開発された機体ですが、デラーズ紛争により「なかったこと」にされている、宇宙世紀0083年の「ガンダム試作2号機サイサリス」からのフィードバックも行われています。
そしてリック・ディアスには、アクシズからクワトロが持ち込んだ新素材「ガンダリウムγ」が使われていました。初代ガンダムがガンダリウムα(ルナチタニウム)を使用したことにより、その名前となったこともあり、エゥーゴの指導者ブレックスは「γガンダム」と命名します。しかしクワトロが「ガンダムの名を使うのは先代ガンダムに申し訳ないので、別のコードネームにしたい」と申し入れ、リック・ディアスとなったわけです。
宇宙世紀ものではありませんが、ガンプラをテーマとした『ガンダム ビルドダイバーズブレイク』には「ビルドγガンダム」が登場しており、白と青で塗られ、ガンダム試作2号機に似た顔が付いたデザインです。連邦軍人であるブレックスが、γガンダムと名付けようとした時のリック・ディアスは、恐らくはこんなデザインだったのでしょう。
では、ブレックスはなぜジオン系技術で作られたMSを、γガンダムと呼ぼうとし、クワトロはなぜそれを変更させたのでしょうか。
核攻撃可能な「ガンダム試作2号機」が焦点に?

それは「ガンダム試作2号機」の存在からでしょう。アニメ『機動戦士ガンダム0083 スターダストメモリーズ』に登場する試作ガンダム群は、アナハイム・エレクトロニクスが初めて手掛けたガンダムです。本来は地球連邦軍の機密兵器として製造されたガンダムですが、試作2号機はジオン公国系の開発スタッフが多い第2研究事業部が担当していましたから「ガンダムを名乗るジオン系MS」とも言えるわけです。
宇宙世紀0081年にガンダム開発計画がスタートし、宇宙世紀でも屈指の大企業であるアナハイムがそこに参加する、ということに政治的意味合いがないわけがありません。連邦政府からすれば「連邦を脅かした高度な技術力を持つアナハイムのジオン系技術者すら、今は連邦に屈服してジオン残党を攻撃するガンダムの開発をしているのだ。ジオン残党どもよ、お前たちの居場所はもう地球圏にはないぞ」という政治的意図でしょう。
アナハイムとしては「スペースノイドのエリートであるジオンの高度な技術力を持ってすれば、連邦の象徴であるガンダムをより高性能にできるのだ。ガンダム開発に関与することで、連邦系技術力も吸収すれば、連邦が我々を弾圧しようとしても、充分に対抗できるMSを作れるだろう」という政治的意図もあり、ガンダム開発計画に参加したのでしょう。
『0083』の劇中で、ジオン残党艦隊を率いるデラーズは、奪取したガンダム試作2号機を「晒し者」にしたうえで「このガンダムは核攻撃を目的として開発されたものである」と、地球圏に放送しています。逆に言うなら、0083年時点で、ガンダムの存在は機密でもなんでもなく、連邦軍勝利の象徴として、世間に認知されていたということです。
世間の認識がこうであるなら「ガンダム開発計画」は、地球連邦政府とスペースノイドの代表的企業であるアナハイムが、融和した戦後の象徴として宣伝されていたことも考えられます。だからこそ、デラーズは「南極条約違反のこの機体が密かに開発された事実」を訴えているとも考えられるわけです。
つまりデラーズの意図は「連邦とスペースノイドの融和など欺瞞だ。地球連邦政府はジオン共和国と講和条約を結んだから、戦時条約である南極条約は無効になったと言っている。逆を返せば核攻撃を禁止した南極条約は無効で、スペースノイド相手に核兵器を使っていいと考えているから、核攻撃可能なガンダムを作ったのだ。南極条約を終わらせたジオン共和国は売国奴だし、我々は南極条約が今もなお有効であると示すために、改めて宣戦布告をする」という意味合いもあったと考えられます。
そして、連邦政府が過失を認めず、デラーズの演説を黙殺したからこそ「南極条約違反であるガンダム試作2号機による核攻撃と、コロニー落としを連邦自身に行うことが、我々の宣戦布告を無視した連邦政府への最大の批判となる」という政治的意図を込めた作戦が「星の屑作戦」だとも考えられるわけです。
で、デラーズ紛争の終結により、ガンダム開発計画は「なかったこと」にされました。そしてエゥーゴとは、実質的にはアナハイムとそれに賛同する地球連邦軍人、穏健派のジオン軍人の集合体です、つまり「連邦とスペースノイドの融和である、アナハイムのガンダム開発計画自体がなかったことにされているよな」という認識を持ち得るわけです。
穏健派であるブレックスが「アナハイム(エゥーゴ)のガンダムは連邦とスペースノイドの融和の象徴であるべき」と考えていたのなら、ガンダム試作2号機の系譜にあるリック・ディアスを「γガンダム」と名付けようとしたことが、無理なく理解できる思えます。
クワトロとしては「ガンダム試作2号機によく似た顔とシルエットを持つ、このMSをγガンダムとし、エゥーゴの作戦に投入したなら、世間は我々をザビ家主義のデラーズと同一視する」と考えて、「別の名称としたい」と申し入れたのだと考えられます。
一方、ブレックスとしては「ザビ家主義も、ティターンズも認めない、正当な連邦軍が我々であることを示すために、連邦軍の象徴であるガンダムが、政治的に欲しい」と考えたのでしょうし、だからこそ「ガンダムMK-II」は白く塗り替えられたと考えられます。
こうした経緯でエゥーゴの正当性を象徴する「Zガンダム」は、「なかったこと」にされた「ガンダム試作1号機フルバーニアン」とよく似た塗り分けと脚部デザインとなったのかもしません。もちろん、ガンダム試作計画に参加したスタッフは、大半がZガンダムの設計にも参加していたからそうなったのだろうと、筆者には思えるわけです。
(安藤昌季)



