『Zガンダム』可変機全盛の時代になぜ「天才シロッコ」は「ジ・O」を作りあげたのか
『Zガンダム』のラスボス「シロッコ」は、自らMSやMAの設計を手掛ける天才で、最初期の可変機も作っています。その彼が最後に乗っていたのは非可変機でした。彼が宗旨変えした理由を探ります。
可変機という戦場のトレンドを破壊しようとした天才・シロッコの悲劇

『機動戦士Zガンダム』に登場するモビルスーツの中で、もっとも不思議な存在は、「パプテマス・シロッコ」の最後の愛機「ジ・O」でしょう。
グリプス戦役期は可変MSが主流で、高速移動と一撃離脱を軸とした中遠距離戦が発達していました。そうした時代にあって、変形機構も長距離飛行能力も持たず、「隠し腕」まで備え接近戦に特化したジ・Oは、あまりに異質な存在です。
実際、「カミーユ・ビダン」の乗る「Zガンダム」との最終決戦では、鍔迫り合いの末、「金縛り状態」からの串刺しで撃破されました。もしシロッコが、自ら設計した可変モビルアーマー「メッサーラ」で距離を取って戦っていれば、違う結果になったかも――そう感じる人も少なくないでしょう。では、なぜ彼はジ・Oを選んだのでしょうか。
まず、ジ・Oは高機動スラスターと50基以上の姿勢制御バーニアを備えた「機動性の怪物」です。「ハマーン・カーン」の駆る「キュベレイ」と互角以上に渡り合い、オールレンジ攻撃を回避しながらファンネルを撃墜した描写からも明らかです。
一方、メッサーラは『Z』劇中で最初期の可変機で、「可変MS/MA」という概念はシロッコ自身が切り開いた可能性があります。その彼が、あえて非可変MSであるジ・Oを選び、可変MSの完成形ともいえるZガンダムを圧倒していた点は象徴的です。
つまりシロッコは、可変機というトレンドを超える「次の解」を、ジ・Oで示したかったのでしょう。戦場全体が可変機に傾くなか、その潮流をひとりで破壊できるというプライドを形にした存在です。天才を自認する彼にとって、これ以上ふさわしい機体はなかったのでしょう。
第二の理由は、シロッコのパーソナリティです。彼は「歴史の立会人」を名乗り、「戦後の地球を支配するのは女だ」と語りながらも、「世界を動かしてきたのはひと握りの天才だ」とも言い放ちます。その実像は「サラ・ザビアロフ」や「レコア・ロンド」といった女性を影から動かす黒幕でした。
ジ・O単体では極端な構成に見えますが、サラの駆る「ボリノーク・サマーン」は索敵、レコアの「パラス・アテネ」は中距離火力に優れ、三位一体の編成を前提としているといえるでしょう。前線で探らせ、追い込み、最後に奥に控えるジ・Oが仕留める――まさに黒幕的な戦い方です。しかし最終決戦前に、シロッコはその両翼を失ってしまいました。
とはいえ、ジ・Oは単機でも激戦を生き抜ける性能を備えています。高い機動力と重装甲に加え、簡易サイコミュ「バイオセンサー」を搭載し、シロッコの思考に機体が即応する設計でした。50基以上のバーニアを制御できたのも、この追従性があってこそです。
本来であれば、サラとレコアという「二枚の盾」を突破した先に、攻撃を当てることすら困難で、当たっても装甲を抜けない“魔王”が待ち構えている構図でした。シロッコが自信満々だったのも根拠のないことではありません。
ところが、最後の相手は最強格のニュータイプでした。カミーユを中心に発生した可視化されたらしきサイコウェーブの巨大な発光が、ジ・Oに干渉しています。金縛り状態に陥った理由は、劇中では明言されていませんが、バイオセンサーが誤作動を起こした可能性も考えられます。
万全の備えを整えていた天才が、たまたま“天敵”に遭遇してしまった。シロッコの敗北は、自信過剰ではなく、運が悪かっただけなのかもしれません。
(多根清史)




