アニメやゲームの「リメイク連発」が経済的に正しすぎた話 制作力の低下じゃなかった
ここ数年、アニメやゲームで過去作のリメイクやリブートが目立ちます。「新作が作れないのか」という声もある一方で、制作コストの高騰と購買力世代へのマッチングという、経済的な合理性が背景にあるようです。
リメイクはアニメ・ゲーム産業を守る切り札…?

ここ数年、アニメ・ゲーム業界では過去の名作を復活させるリブート作品やリメイク作品が相次いでいます。最近ではアニメ『ハイスクール!奇面組』やHD-2D版『ドラゴンクエストI&II』が注目を集めていました。
これらの動きに対して「新しいアイデアが枯渇している」「制作力が低下した」といった批判も聞こえます。しかし、多くの新規IPが生まれているなかで、リメイクはあくまで一部であり、成功事例が多いために目立っているだけでしょう。
つまり「資本主義的な効率によって促進され、成果を挙げている」と解釈するのが妥当です。どういうことか、以下に見ていきましょう。
まず、近年はアニメやゲームの制作コストが飛躍的に膨らみ、1本あたりの投資額が莫大になりました。アニメでは高密度な作画や高度なCG技術、有名声優の起用、人件費の上昇により、1クールのアニメで数億円、1話あたり数千万円が必要ともいわれます。国際的なAAAゲームともなると、制作費が100億円を超えることも珍しくありません。
この状況でオリジナルの新規IPは、市場に受け入れられる保証がなく、宣伝コストもかさむため、企業にとって非常にリスクが大きく、ほとんどギャンブルといえます。一方、既存IPであれば確立されたファン層がいるため、一定の売上が見込めるのです。それに知名度があるため宣伝費も抑えられ、低リスクで安定したリターンを期待できるでしょう。
次に、少子高齢化が進む日本では、若年層よりも中高年層のほうが人口規模も可処分所得額も大きくなっており、40代前後をターゲットにする合理性が高まっているのです。
総務省の直近のデータ(2023年から2024年時点)によれば、40代の人口は20代の約1.3倍になります。さらに、いまや40代の4人にひとりが単身者というご時世で、子供の養育費や教育費といった支出とは無縁の世帯も増え、無論、40代単身者の可処分所得額は20代単身者より高い水準にあります。
そして諸説あるものの、昨今の40代エンタメ総市場規模は20代のそれの1.5倍ともそれ以上ともいわれます。2025年時点で50代前半にあたる団塊ジュニア世代も考慮に入れると、エンタメ市場におけるこの世代のパイの大きさがうかがい知れるというものでしょう。
そうした彼らが青春を過ごしたころ、つまり20年から30年前の過去作をリメイクする企画こそ、リーチできる客層や売上を最大化できる可能性が高くなっているわけです。
実際に『FINAL FANTASY VII REMAKE(ファイナルファンタジーVII リメイク)』(2020年発売)は、1997年発売の原作を最新技術で作り直し、発売3日間で世界出荷350万本、4か月で500万本超の大ヒットとなり、当時スクウェア・エニックス・ホールディングスのゲーム事業営業利益を前年の約2倍に押し上げていました。
こうした数字は、旧来ファンには「過去体験のリマスター」として、新規ファンには「最新のゲーム」として受け入れられたことを示すものでしょう。原作をプレイ済みのユーザーには結末が分かっており、かつ3部作の第1作に過ぎないのに新作並みのフルプライス価格だっただけに、売れ行き観測はネガティブでしたが、見事に覆しています。
また「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズは、新作公開のたびに前作の興行収入を上回り、最終章『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では累計興行収入100億円を突破しました。旧来のファンを呼び戻しつつ、新規ファンも獲得し、支持層の裾野を広げていると考えられます。途中の『Q』では観客を突き放した感もありましたが、旧作の劇場版と比べれば生やさしかったのかもしれません。
リメイク作品を通じて過去作が再評価されれば、そこから派生する新たなコンテンツ市場も広がります。さらに新作に触れた子供たちが成長して親になれば、世代を超えてIPの寿命が延び、再びリメイクが繰り返される展開もあり得るでしょう。こうしたリメイク企画に新たな解釈や技術が加わること自体が創造性への挑戦となり、若手クリエイターが参加することで実績を残し、オリジナル作品への足がかりにもなります。
一方で、これだけのポテンシャルを秘めた過去IPは、海外資本に買収されて国外流出するリスクもあるといえそうです。リメイク作品やリブート作品は、日本のクリエイティブ産業が国際競争のなかで生き残るための「武器」のひとつでもあります。制作企業が生き残ってこそ「次の展開」が可能になるわけで、それらの資金によって新たなオリジナル作品につなぐためにも、今後は「過去の人気IPを国内で守り続けること」が国策として求められるのかもしれません。
『FINAL FANTASY VII REMAKE』:
(C)SQUARE ENIX
CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA / ROBERTO FERRARI
LOGO ILLUSTRATION: (C)YOSHITAKA AMANO
(多根清史)


