『鬼滅』諦めるな、考え続けろ! 「至高の領域」に理詰めでたどり着いた炭治郎の軌跡
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』でついに「強者の立つ場所」へ到達した炭治郎、その成長の軌跡を振り返ると、血筋や才能だけでは説明できない「偶然」と「必然」が絶妙に組み合わさっていることが分かります。
義勇・煉獄・おじさん…炭治郎を強者へと導いた全ピースを紐解く

『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は数々の記録を塗り替え、公開1か月が経過した2025年8月中旬のいまなお大ヒットを続けています。
※以下、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』のネタバレが含まれますのでご留意ください。
その物語は、ざっくり言えば主人公「竈門炭治郎」が鬼殺隊の実力者「柱」と肩を並べ、因縁の宿敵「猗窩座」をはじめとする「上弦の鬼」たちと同じ領域で渡り合う、「強者の立つ場所」にたどり着くまでの道のりを描いています。
劇中で大きなターニングポイントとなるのが、炭治郎が「透き通る世界」に開眼する瞬間です。主人公の覚醒イベントは珍しくありませんが、注目すべきは「炭治郎が理詰めでその領域に到達している」という点です。これまで積み重ねてきた死闘と人々との交流がパズルのピースのようにパチッとはまり、「何ひとつ無駄ではなかった」と身震いできる場面です。
なぜ、炭治郎は強くなれたのか。その出発点は、全集中の呼吸の元祖「日の呼吸」と本質的に同じ「ヒノカミ神楽」を継承する竈門家に生まれたことです。日の呼吸は全ての鬼に対して有効ですが、体質的に合っていなければ習得できず、「血筋」が何よりも重要です。
それに父「炭十郎」はヒノカミ神楽の名手で、「疲れない息の仕方」を極め、長年にわたり炭治郎に舞を見せていました。命が尽きる直前には、人を襲う巨大な熊を一撃で仕留め、動きを見抜く見取り稽古まで行っています。さらに、炭十郎は長男である炭治郎に「絶対に諦めるな、考え続けろ」や「力の限りもがき苦しむ」ことで領域に至るという精神も伝えていました。
この「もがき苦しむ」修行の場を与えたのが、「冨岡義勇」と「鱗滝左近次」です。厳しい鍛錬を課しただけでなく、ふたりが「水の呼吸」の使い手であった偶然こそが、炭治郎の成長に不可欠でした。
水の呼吸は技の型が多様で攻守に優れて汎用性が高く、初心者にも扱いやすい呼吸法です。そして動きの基礎となる「歩法」は攻撃をかわすことを重視し、使い手が生き残りやすくなっています。さらに「鬼を苦しませずに屠る」技があり、炭治郎の優しい性格にも合っていました。
結局、炭治郎の体質と水の呼吸は完全に合っていませんでしたが、それもヒノカミ神楽=日の呼吸に目を向けることに繋がりました。もしも下弦の鬼「累」の糸を水の呼吸だけで斬れていたなら、ヒノカミ神楽を剣技に応用しようとは思いつかなかったでしょう。
最大の転機は、最強の柱の一人「煉獄杏寿郎」とともに猗窩座との初戦に臨めたことです。このとき、煉獄が命がけで守ったからこそ、炭治郎は生き延びられました。もしバディが炭治郎と関係が最悪だった「不死川実弥」だったなら、物語はそこで終わっていたでしょう。
しかも、猗窩座は煉獄に「その闘気は練り上げられている、至高の領域に近い」と告げており、これは炭治郎に「闘気を極めた先に至高の領域がある」という大きなヒントを与えるものでした。
もっとも、その後に煉獄家に残っている日の呼吸の資料が役に立つかと思いきや、杏寿郎の父「槇寿郎」が破棄していたため無為に終わりました。日の呼吸の復活については、「炭治郎の記憶力」しか仕事をしていません。
今回の決戦では、炭治郎は「伊之助」との「殺気」をめぐる会話や、上弦の鬼「半天狗」が自らの心臓に隠れていたことを見抜いた経験など、様々な記憶をロジカルに積み上げて「強者の立つ場所」に到達しています。その考える時間を稼いだのは義勇であり、まさに柱の中の柱といえる存在です。
が、さらに振り返れば、炭治郎が人間として鬼殺隊に入れたのは、物語冒頭で「鬼が出るから家に泊まっていけ」と引き留めてくれたおじさんのおかげです。もしこの引き留めがなければ、義勇や鱗滝との出会いもなく、さらにとんでもない展開になっていた可能性もあります。炭治郎も回想の中で、ひとコマぐらいはおじさんを思い出してあげてもいいのではないでしょうか。
(多根清史)

