『ガンダム』海のない宇宙だからこそ? ジオンがあれほど水陸両用MSを充実させたワケ
いわゆるスペースノイドの国家である「ジオン公国」は、なぜあれほど水陸両用MSを開発したのでしょうか。実のところ、「水陸両用」という「用途」のみが目的ではなかったようです。
ジャブロー攻略とビーム兵器の進化に貢献

TVアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』第9話では、ジオン公国軍の水陸両用モビルスーツ、通称「ジオン水泳部」が短いながらも登場したことで、大きな反響を呼びました。原典である『機動戦士ガンダム』においても、実にさまざまな水陸両用MSが登場しています。しかし、スペースコロニーを拠点とするジオンが、なぜ水泳部を充実させたのかという疑問が湧き上がるのではないでしょうか。
その理由のひとつとして、地球の7割を「海」が占めていたことが挙げられます。その制海権を握ることが、地球侵攻作戦の成否を握る鍵になると考えられていたのでしょう。実際に、緒戦での地球への「コロニー落とし」直後に、軍港の性質を色濃く持つ地球連邦軍のキャリフォルニアベースを制圧し、そこの潜水艦を自軍戦力にするとともに、水陸両用MSを開発・製造する拠点として利用しました。
それ以上に大きいのが、連邦軍本部のジャブローがアマゾン川流域にあると噂されていたことです。そもそもコロニー落としの真の目標はジャブローであり、「分厚い岩盤に守られているので、周辺ごと潰す」という発想だったとの説もあります。それだけ対空防備が堅牢であったため、水中からの侵入が有効だと考えられたのです。これは「シャア・アズナブル」大佐が、真紅の専用「ズゴック」で猛攻を仕掛けたことで裏付けられました。単に海中での戦闘のみならず、「水中から侵入しての白兵戦」を早くから想定していたことがわかります。
結局のところジャブロー侵攻は失敗しましたが、それでもジオン水泳部は「モビルスーツの進化」において重要な役割を果たしました。それは、連邦軍に対して大きな遅れを取っていた「ジェネレーター出力」と「ビーム兵器(メガ粒子砲)の実用化」という2点です。
水陸両用MSで初の量産機となった「ゴッグ」は、ジオンMSで初めてメガ粒子砲を内蔵した機体でした。そのずんぐりした機体には核融合炉が搭載されており、大量の水を取り込む「水冷式」により高出力を実現します。それによりビーム兵器の運用が可能になったものの、貯蔵した海水や重装甲ゆえに地上での動きは鈍重となりました。
このゴッグの完成形といえるのが、シャアの愛機のひとつであるズゴックです。機体冷却には空冷式と水冷式を併用することで、余分な冷却装置を省いて小型、軽量化を実現しつつ、ゴッグ以上に強力なメガ粒子砲を両腕に搭載しました。その高スペックは、まさにジャブローでシャア自らが証明しています。なお、ゴッグは「ツイマッド社」、ズゴックは「MIP社」が開発しましたが、戦時中ゆえにビーム兵器の技術は共有されていたようです。
そうしたノウハウが蓄積され、ジオン最後の切り札となったのが「ゲルググ」のビームライフルでした。それまでジオン軍の主力MSは実弾兵器しか備えておらず、MS用のビーム外装は存在しませんでした。それが「量産機」であるゲルググの標準装備にできた上に、威力、射程ともに「ガンダム」のビームライフルに匹敵したのは驚くべきことです。
ただし「ゲルググ」は、生産が遅れて数が揃わず、また配備された戦争末期には熟練パイロットが不足したこともあり、実際に戦局を覆すには及びませんでした。もっとも、開発に時間がかかり高コストのビーム兵器にこだわるよりも、短期で開発できて費用対効果に優れた別の兵器を模索すべきだったのでは、との声もあります。
ジオン水泳部は、総合的に見れば時代の徒花に終わった感もありますが、もっとも長きにわたり運用された戦力のひとつでもあります。ジャブローでの戦いから約17年後の『機動戦士ガンダムUC』では、部員の1体である「ゾゴック」が世代の新しい「ジムII」の胸部を貫き、さらに別の部員「ジュアッグ」が「ネモ」を無力化するなど、獅子奮迅の働きを見せました。「よくぞ生き残っていた」と感動するか、「連邦軍に相手にされなかったので損耗しなかった」と解釈するかは、人により異なるかもしれません。
(多根清史)


