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楳図かずおの『赤んぼ少女』 いま読み返すと分かる「いじめ」の正体とタマミの哀しみ

壮絶ないじめの裏に隠された異形の哀しみ

「赤んぼ少女」DVD(キングレコード)。映画では浅野温子が母親役を、野口五郎が父親役を演じた。
「赤んぼ少女」DVD(キングレコード)。映画では浅野温子が母親役を、野口五郎が父親役を演じた。

 赤んぼ少女タマミの葉子へのいじめは、いじめを通り越し、命を脅かすほどのものでした。火のついた石油ランプを頭に乗せて歩くように命じたり(しかもタマミをおんぶさせて)、ギロチンで葉子の腕を切断しようとしたり。さらには葉子の味方でありタマミをうとんじる父親を、甲冑の中に閉じ込めて殺そうとさえするのです。

 ページをめくる子供たちにとってタマミは、ただひたすらに執念深く恐ろしく、なんとか葉子がタマミから逃れてほしいと念じたものでした。

 けれども大人になってこの物語を読み返すと、タマミの哀しみが、ひしひしと伝わってきます。

 夜中にひとり、タマミは化粧台にむかって口紅をつけてみるのですが、鏡の中に写っているのは化粧をしても醜い自分の姿だけ。思わず落ちるひとしずくの涙が、美しさに憧れても叶えられないタマミの乙女心を映していて、胸がしめつけられます。

 さらに、いじめの限りを尽くしたタマミは、葉子にこんな言葉を放つのです。

「おまえはわたしがいじめてばかりいたと思っていただろうけど、ほんとうはおまえがわたしをいじめていたのよ」

 葉子が家に来るまでは、醜い自分の姿がみじめではあったけれど、それなりに幸せだった。なのに、葉子が家に戻ってからというもの、美しさを見せつけられてただただ、つらかったのだと。それまで邪悪なだけの存在だったタマミは、実は、“美しさ”という絶対的な力に虐げられた弱者だったのです。

 作者の楳図かずお氏は『赤んぼ少女』について「お化けの立場に立って物語を見ていった最初の作品」だと語っていますが、たしかにこの作品の本当の主人公は、〈哀しみを抱えた異形のもの〉タマミだったのかもしれません。

(古屋啓子)

【画像】楳図かずお氏が描いてきた少女たち。美しくもひと筋縄ではいかない存在で…(6枚)

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