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金ローで『エヴァ新劇場版:破』、大ヒット生み出した庵野監督の「快感原則」とは?

「快感原則」を実践してみせる庵野監督

『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版』で碇シンジが搭乗するエヴァ初号機。画像は「ROBOT魂 エヴァンゲリオン初号機-新劇場版-塗装済み可動フィギュア」(BANDAI SPIRITS)
『ヱヴァンゲリヲン 新劇場版』で碇シンジが搭乗するエヴァ初号機。画像は「ROBOT魂 エヴァンゲリオン初号機-新劇場版-塗装済み可動フィギュア」(BANDAI SPIRITS)

 庵野監督が語った「快感原則」は、ファンだけに向けられたものではありません。庵野監督自身も「快感原則」に従って、作品を生み出してきました。若手アニメーター時代には『風の谷のナウシカ』(1984年)の巨神兵が熱線を吐き出すシーン、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(1987年)のロケット発射シーンなどを描いています。カタルシスを感じさせるシーンの描写に、庵野監督は尋常ならざるエネルギーを注いできました。作り手自身が気持ちよさを感じられるからこそ、大変な作業を完遂することができたのです。

 人類を一度滅亡させるという最高のカタルシスを描いた旧劇場版の完成後、庵野監督はアニメ界をしばらく離れ、女子高生たちを主人公にした映画『ラブ&ポップ』(1998年)で実写監督デビューを果たします。さらに故郷・山口県宇部市を舞台にした『式日』(2000年)、人気マンガの実写映画化『キューティーハニー』(2004年)を続けて撮っています。実写映画の制作は庵野監督に新しい刺激を与えましたが、予算の関係などもあって、自分の思いどおりの実写作品を仕上げるのは容易ではないことも学んだようです。再びアニメ界に戻り、新劇場版を手がけることになります。

 アニメーションが庵野監督に快感を与えていたとしたら、実写映画は現実社会のままならなさを教える真逆の世界です。「快感原則」とその対になる「現実原則」との狭間を、庵野監督は行き来しながらキャリアを築いてきました。あたかも、シンジが綾波レイとアスカとの狭間で揺れ動くかのように。

物語の鍵は「現実原則」にどう向き合うか

 真っ白な状態から新しい世界を生み出していくアニメーションは、「快感原則」がとても当てはまりやすい表現手段です。庵野監督にとって師匠的存在である宮崎駿監督は、『風の谷のナウシカ』(1984年)や『魔女の宅急便』(1989年)など、空を飛ぶことの気持ちよさを追求するかのような作品を生み出してきました。宮崎アニメの主人公たちが空を舞う瞬間、それを観ている私たちも一緒に爽快さを感じることになります。

 新海誠監督はデビュー作『ほしのこえ』(2002年)から一貫して、初恋の相手をずっと追いかけ続けています。細田守監督は『サマーウォーズ』(2009年)などのヴァーチャルな世界で別キャラクターに変身し、理想の世界を築こうとします。こうして見ると、大ヒットアニメの多くは「快感原則」に基づいて生み出されてきたと言えるかもしれません。

 ただし、「快感原則」を追求しているだけでは、人間はいつまで経っても幼児のままですし、現実社会を成立させることもできません。「現実原則」に応じて、現実の世界に向き合う必要性が生じます。自分に優しく接してくれる人のみを受け入れようとしてきたシンジは、迫りくる人類滅亡の危機にどのように立ち向かうのでしょうか。

 14歳の少年だったシンジは現実の世界を見つめ、大人へと成長することができるのか? また、四半世紀にわたって「エヴァ」熱にうなされ続けた多くの日本人も、「快感原則」から卒業することができるのか……? 公開延期となった『シン・エヴァンゲリオン劇場版』ですが、庵野監督がどのような結末を用意したのか、とても気になるところです。

(長野辰次)

【画像】『破』では「最強の拒絶タイプ」使徒が登場。シンジたちを苦しめる(5枚)

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