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アニメだから描けた世界…北朝鮮収容所が舞台の『トゥルーノース』と、『映画大好きポンポさん』

ふたつの意味を持つ『トゥルーノース』

映画『トゥルーノース』の一部シーン
映画『トゥルーノース』の一部シーン

「北朝鮮の強制収容所には興味がない」と思う人がいるかもしれません。でも、清水監督はそんな人も惹き付ける力強い人間ドラマへと、『トゥルーノース』を仕上げています。ヨハンは父親のことを恨みます。父親のせいで、自分たちは罪もないのに強制収容所送りになってしまったと。9年の歳月が流れ、タフな若者に成長したヨハンは、他の収容者たちを犠牲にしてまでも、自分たち家族だけは生き残ろうとします。生々しい人間のエゴを、本作はえぐり出してみせます。

 そんなヨハンのことを、他者をいたわることを決して忘れない母親のユリは、「誰が正しいとか間違っているとかではなく、何になりたいかを自分に問いなさい」と優しくさとすのでした。他の誰かのことを憎んだり、うらやんでいる限りは、その人の人生はずっとそこで止まったままです。何も始まりません。どんなに厳しい状況でも、自分の進むべき道を見失ってはいけない。母親ユリのキャラを通して、本作は観客にやんわりと語りかけてきます。

 清水監督によると、『トゥルーノース』にはふたつの意味があるそうです。ひとつは「ニュースでは報道されない北朝鮮の現実」という意味、そしてもうひとつは「絶対的な羅針盤」という意味です。強制収容所という究極の閉鎖状況、まったく自由のない世界において、ヨハンは「生きる意味」を求めて懸命にサバイバルすることになるのです。日本にあっても今の生活に不自由さを感じている人に、ぜひ観てほしいエンタメ作品になっています。

観客を驚かせる『ポンポさん』の意外性

『映画大好きポンポさん』キービジュアル
『映画大好きポンポさん』キービジュアル

 もう1本、『トゥルーノース』と同じ6月4日より公開が始まった『映画大好きポンポさん』も、非常に興味深い劇場アニメです。こちらは3Dアニメではありませんが、かわいらしい少女キャラクターを使って映画製作の内情をとてもディープに描いています。

 映画プロデューサーのポンポさん(年齢不詳)、そのアシスタントを務めるジーン、新人女優のナタリーらの視線を通し、映画製作の醍醐味、なかでも一見すると地味な作業である「編集」によって、映画は傑作にも凡作にもなってしまうことが熱く描かれています。単に映画愛を語るだけでなく、プロとして物づくりに関わる者たちの矜恃、映画制作を通したラブストーリーも紡がれていきます。上映時間94分のなかに、かなり濃い情報が込められています。

 北朝鮮における絶対的タブーである強制収容所を題材にした『トゥルーノース』、映画製作のマニアックな、でも大切な本質を描いた『映画大好きポンポさん』、どちらもアニメーション表現だからこそ可能だった作品だと言えるでしょう。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)が世界興収500億円を突破したように、アニメーションは国境に関係なく、幅広い人たちが気軽に親しめる魅力的な表現スタイルです。日本国内で公開中の『トゥルーノース』と『映画大好きポンポさん』は、ともにアニメーション表現の新しい可能性の扉を開いた作品として、長く記憶されることになるのではないでしょうか。

(長野辰次)

●『トゥルーノース』
監督・脚本・プロデューサー/清水ハン栄治 音楽/マシュー・ワイルダー
配給/東映ビデオ TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
(c)2020 sumimasen

●『映画大好きポンポさん』
原作/杉谷庄吾【人間プラモ】 監督・脚本/平野隆之
配給/角川ANIMATION  EJアニメシアター新宿ほか全国公開中
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

【画像】アニメだからこそ描けた!見えない世界の内側…『トゥルーノース』と『映画大好きポンポさん』(16枚)

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