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興収50億が目前『竜とそばかすの姫』 若者の共感を集めるのは「新時代のフェス像」?

表現手段を持つことで変化する主人公

『竜とそばかすの姫』と音楽は互いに切り離せない存在。オーディオ ストリーミングサービス 「Spotify」では、同作公式のプレイリストが配信中。音楽関係スタッフのボイスコメンタリーも聞くことができる
『竜とそばかすの姫』と音楽は互いに切り離せない存在。オーディオ ストリーミングサービス 「Spotify」では、同作公式のプレイリストが配信中。音楽関係スタッフのボイスコメンタリーも聞くことができる

 細田監督の作品は、自分の気持ちを他人に伝えるのが不得手な主人公が多いのが特徴です。すずも、これまでの細田作品の主人公たちと同様に、幼なじみのイケメン同級生・しのぶ(CV:成田凌)とはうまく会話ができず、男手ひとつで育ててくれた父親(CV:役所広司)とも距離を置いてしまっています。そんな自分のことが、すずは好きになれずにいます。

 本作のすずは、これまでの細田作品の主人公たちと違う点が、ひとつあります。それは、すずには曲を作る才能があるということです。母親がまだ生きていた頃に、すずは音楽ソフトに触れ、曲づくりの面白さを知るようになります。現実世界ではもじもじしてばかりいるすずですが、「U」の世界では音楽的才能が花開くことになるのです。

 自分が心で思っていることをきちんと言葉にするのは、容易なことではありません。揺れ動く思春期なら、なおさらでしょう。でも、すずは「U」の世界で歌姫となり、多くの人たちの共感を集めていきます。傷ついた心を持つ「竜」とも、出会うことになるのです。

 すずは自作の曲を「U」の世界で発表することで、内面から変わっていくことになります。音楽という表現手段を手にしたことで、すずは自分に自信を持ち、大胆に行動する女の子へと変わっていきます。ひと夏の経験は、ひとりの少女を大人へと成長させていくのでした。

細田監督自身の体験がベースに

 物語のクライマックス。すずが「竜」の正体に気づき、助けに向かうシーンは賛否を呼んでいます。確かに、歌がうまく歌えるようになっても、現実的な問題を解決する役には立ちません。音楽そのものは、決して人間の窮地を救ってはくれません。

 でも、すずは音楽という表現手段を手に入れたことで、自分のこれまでの「生」を肯定できるようになりました。「竜」が抱えているトラブルは、すぐには解決しないでしょう。それでも、音楽がすずの支えになっているように、すずは「竜」の支えになりたくて、懸命に手を差し伸べようとします。「竜」にも生きる喜びを知ってほしいと思ったのです。

 すずの決断が正しいか間違っているかは別にして、すずが自発的に行動に移す姿を細田監督は描きたかったように感じます。すずにとっては、曲づくりが人生を変えるきっかけとなりました。すずのこの変化は、細田監督がアニメーション制作の面白さに目覚めた体験をベースにしているように思います。

 金沢美術工芸大学を卒業した細田監督は東映アニメーションに入社しますが、プロの仕事の過酷さを痛感し、心が折れそうになったそうです。そんなとき、ディズニーアニメ『美女と野獣』(1991年)を観て、野獣がヒロインと出会うことで内面から変わっていく物語に感動したのです。人は出会いによって変わっていくのだと。

 音楽だけでなく、表現方法にはアニメ、絵画、ダンス、お笑い、演劇など、いろいろとあります。自己表現の場を持つことで、新しい世界が広がっていきます。インターネット上の「いいね」やフォロワー数が多いか少ないかは、あまり関係ないように思います。勇気を出して、すずは最初の一歩を踏み出しました。すずが踏み出した一歩に、観客はシンパシーを感じているのではないでしょうか。

(長野辰次)

(C)2021 スタジオ地図

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