30年以上前の映像センスに「ビビる!」 東映アニメの“神回”で魅せた細田守監督の若き才能
劇場アニメの第一人者として、数々の名作を世に送り出してきた細田守監督は、かつて「東映動画(現:東映アニメーション)」のアニメーターとして活動していました。構図の妙や独自のテンポ感など、その映像センスが発揮された「細田回」からは、デビュー以前から監督としての成功を予感させます。
ここにも、あそこにも「細田守」の名前が!

いよいよ最新作『果てしなきスカーレット』の公開が間近に迫り、『金曜ロードショー』では細田守監督作品が4週連続で放送されます。いまでこそ劇場アニメの第一人者として知られる細田監督ですが、かつては「東映動画(現:東映アニメーション)」でアニメーターとして経験を積んでいました。
若き日の作品を改めて見返すと、構図の妙や独自のテンポ感など、のちの映画表現にも通じるセンスがすでに息づいていたことが分かります。
細田監督が東映動画に入社したのは1991年のことで、当時はまだ新人アニメーターとして数々の人気作品に携わっていました。その名がクレジットされているタイトルを見ていくと、『SLAM DUNK』をはじめとするTVアニメシリーズや、『ドラゴンボールZ 燃えつきろ!! 熱戦・烈戦・超激戦』『ゲゲゲの鬼太郎 大海獣』といった劇場作品にも参加しており、時代を代表するラインナップが並びます。
そうしたなかで、細田監督が初めて「演出家」という立場で腕を振るったのが、TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎(第4期)』でした。第94話「鬼太郎魚と置いてけ堀」で演出家デビューを果たし、第105話、第113話の計3本を担当しました。
とりわけ第113話「鬼太郎対三匹の刺客!」は、主人公の「鬼太郎(CV:松岡洋子)」が敵妖怪を前にただ静かに傍観しているという異色回で、シリーズ屈指のギャグ回としても知られています。その脚本の妙もさることながら、緩急のつけ方や間の取り方といった演出のテンポが絶妙で、ギャグ回としての完成度をさらに高めていました。
またテンポだけでなく、音楽の効果的な使い方も当時から印象的でした。1999年放送の『デジモンアドベンチャー』で細田監督が演出を務めた第21話「コロモン東京大激突!」は、全話のなかでもひときわ異彩を放つエピソードです。
デジタルワールドから突如として現実世界へ戻ってきた主人公を描く本話では、BGMとしてモーリス・ラヴェルによる名曲「ボレロ」が繰り返し使用されています。日常シーンでは穏やかな旋律を、戦闘シーンには高揚感あるパートを重ねることで、物語の緩急を巧みに引き出していました。
さらに「細田回」を語るうえで、『明日のナージャ』も忘れてはいけません。細田監督が原画および演出を務めた第26話「フランシスの向こう側」は、劇場版にも匹敵する作画と背景美術からファンの間で「神回」と称されています。
なかでも印象的なのは、「ナージャ(CV:小清水亜美)」と「フランシス(CV:斎賀みつき)」のキスシーンです。宮殿の中庭で唇を重ねるふたりの姿を直接描くのではなく、鏡のように美しい水面にその映像を反転させることで、幻想的な余韻を生み出しています。突然のキスに驚きつつも、フランシスの首にそっと手を回すナージャの仕草など、その繊細で大胆な演出は、とても「ニチアサ」の女児向けアニメとは思えません。
ほかにもシリーズ最大の異色作として知られる『おジャ魔女どれみドッカ~ン!』の第40話「どれみと魔女をやめた魔女」や、味のある演出で視聴者の心を掴んだ『ONE PIECE』の第199話「迫る海軍の捜査網! 囚われた二人目!」など、ジャンルを問わず印象的なエピソードを手がけています。
ちなみに細田監督は、別名義でも多くの名作と関わっており、例えば「遡玉洩穂(そだま もるほ)」名義では『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』、「橋本カツヨ」名義では『少女革命ウテナ』に参加していました。アニメのクレジットに目を凝らすと、思いがけない作品で細田監督の名前に出会えるかもしれません。
(ハララ書房)




