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『バケモノの子』“邪魔”といわれがちなヒロイン 彼女がいなければ九太は死ぬ可能性があった?

『バケモノの子』のヒロインである「楓」は、その言動をめぐって賛否が分かれがちです。特に、狂暴化した一郎彦を前にした場面での「足手まとい」ぶりが最大の批判理由とされていますが、むしろあの場で逃げ出さなかった彼女の行動は、称賛されるべきものだったのかもしれません。

足手まといどころか、ファインプレーだった楓

『バケモノの子』ポスタービジュアル (C)2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS
『バケモノの子』ポスタービジュアル (C)2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

 映画『バケモノの子』が地上波で放送されると、決まってネット上にはヒロイン「楓(CV:広瀬すず)」をめぐる賛否の声が飛び交います。なかには「邪魔でしかない」「いないほうが良かった」という厳しい意見まで聞こえてきますが、果たして本当にそうなのでしょうか?

※『バケモノの子』終盤の内容に触れています。ネタバレにご注意下さい。

 本作は、バケモノと少年の奇妙な師弟関係を軸に描かれた冒険ファンタジーです。主人公の「蓮(CV:宮崎あおい/染谷将太)」は、9歳のときに母親を亡くして以来、熊の獣人「熊徹(CV:役所広司)」の弟子となり、「九太」としてバケモノの世界「渋天街」で暮らしてきました。

 そして17歳の誕生日を迎えたある日、ひょんなことから人間界へ舞い戻り、そこで進学校に通う同い年の女子高生と出会います。それが「楓」でした。

 楓は、漢字の読み書きもままならない九太に1から勉強を教えてくれた、いわば人間界における師匠のような存在です。彼女との出会いを通して、九太はこれまで知らなかった世界や価値観に触れ、自分がどこで、どう生きていくべきかを考え始めます。物語のなかでは、彼の成長を支える欠かせない存在ともいえる楓ですが、その言動をめぐっては、視聴者の間で賛否が分かれがちです。

 なかでも批判的な意見が集まったのが、狂暴化した「一郎彦(CV:黒木華/宮野真守)」と九太が対峙した場面でした。一郎彦は熊徹のライバル「猪王山(CV:山路和弘)」の長男であり、その正体は九太と同じ人間です。猪王山を心から尊敬する一方で、父親と同じ次期宗師候補者のひとりである熊徹や、一番弟子の九太に強い憎しみを抱いていました。

 そうした憎悪が頂点に達し、怪物と化して人間界へ襲来した際、九太は側にいた楓の身を案じて、逃げるよう促します。ところが楓は逃げるどころか九太の手をしっかり握りしめ、「離さないから!」と抵抗しました。結果、九太は楓を守りながら逃げざるを得ず、多くの視聴者に「楓=足手まとい」と映ってしまったのです。

 とはいえ九太は一郎彦を倒すために「自分のなかに彼を取り込み、もろとも消える」という危険な手段を選ぼうとしていました。もし楓が九太の言う通りにあの場から逃げていたら、熊徹が付喪神になるよりも先に、九太は自らを犠牲にしていたかもしれません。そう考えると、九太の手を取り、ともに地下鉄へと逃げ込んだ楓の行動は、むしろファインプレーともいえるでしょう。

 また楓は幼い頃から両親に勉強を強いられ、家族との関係は冷えきっていました。友人も少なく、過去にはいじめを受けたこともあります。そんな彼女にとって、九太は初めて本音を話せた大切な人です。彼女の心境を踏まえると、九太を置いて逃げるなど到底できるはずもなく、彼を助けたい、支えたいという気持ちは、十分に理解できるものでした。

 さらに戦闘面においては足手まといに見えるかもしれませんが、楓は物語の節々で、思い悩む九太に寄り添い、言葉で支えています。

「私も時々どうしようもなく苦しくなることがある」「きっとみんなそう。だから大丈夫」「忘れないで。私たちいつだってたったひとりで戦ってるわけじゃないんだよ」

 こうした楓の言葉は、確かに九太の心に響き、彼の支えとなっていました。バケモノに育てられた人間という同じ境遇にありながら一郎彦は闇に呑まれ、九太が踏みとどまれたのは、「楓」の存在が大きく影響していたのかもしれません。

 2025年11月14日(金)の『金曜ロードショー』では、最新作『果てしなきスカーレット』の公開を記念して『バケモノの子』が放送されます。すでに作品を観たことがある人も、物語のキーパーソンとして活躍する「楓」に改めて注目してみてはいかがでしょうか?

※宮崎あおいの「崎」は、正しくは「たつさき」

(ハララ書房)

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