劇場アニメ『ロン 僕のポンコツ・ボット』 夢のロボットが投じる「一石」とは
『ドラえもん』を思わせる友情物語

ハイテクロボット「Bボット」のセールスポイントは友達を見つけることなのに、ロンにはその機能がありません。欠陥のあるロボットがクラスで浮いている男の子と仲良くなっていく展開は、『ドラえもん』に通じるものがあり、日本人にもなじみ易いものとなっています。
確かにロボットが友達を探し、友達申請まで代行してくれれば、とても楽ちんです。ひとりぼっちになるかもしれないという恐怖から、解放されることになります。また、友達がたくさんできれば、自慢もしたくなるでしょう。
でも、コンピューターを通しての友達探しは、同じ趣味やライフスタイルが似ている人を見つけることはできても、そこには意外性はありません。趣味や嗜好性が同じ人たちとの交流はもちろん楽しいのですが、同じような考え方の人たちばかりと繋がるため、FacebookやTwitterにのめり込む人のように「エコーチェンバー現象」に陥ってしまう危険性があります。エコーチェンバー現象とは、閉ざされた環境のなかで、特定の意見が強化、増幅されることを指します。この状態になると、誤った考え方を持っても「それは違うよ」と正してくれる人はいなくなってしまいます。
その点、ロンは自宅を飛び出して暴走するなど、バーニーを現実世界での大騒動に巻き込みますが、自室にこもりがちだったバーニーを大冒険に連れていってくれます。自分と同じような性格の友達といるだけでは味わえない想定外の冒険を重ねることで、バーニーとロンは強いつながりで結ばれていくのでした。
ロンはバーニーの友達を見つける代わりに、自身がバーニーの友達となります。そしてバーニーは、友達の数の多さを競うことより、互いのことをどれだけ本気で思いやれる友達がいるかが大事だとということに気づくのです。もはやロンは交換可能なロボットではなく、バーニーにとっていちばんの親友となります。
息苦しさを招きがちな最適化社会
ちなみに『ロン 僕のポンコツ・ボット』は、英国のアニメーションスタジオ「ロックスミス・アニメーション」が制作した初めての長編アニメです。大ヒット3Dアニメ『トイ・ストーリー』(1995年)などで知られるピクサー作品に比べると、人物デザインやストーリーは洗練され切っているとは言えないかもしれません。でも、ロンにポンコツ・ボットならではの魅力があるのと同じように、洗練されていない部分も本作の個性になっているのではないでしょうか。また、最初はうざったい存在に見えていたバーニーのお父さんやおばあちゃんも、ロンの活躍とともに味のあるキャラに思えてきます。
2021年の夏休み映画として公開されたアメコミ映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』や『フリー・ガイ』も、社会のルールや世間の常識から逸脱したダメ人間たちが世界を救い、新しい時代の扉を開く感動的なストーリーとなっていました。『ロン 僕のポンコツ・ボット』にもテーマ的に共通するものがあります。
社会のIT化はますます進み、「Bボット」のような便利なハイテクロボットが近い将来に登場するのは間違いないでしょう。ジューヌ・ヴェルヌの予言どおりになりそうです。しかし、便利さ、快適さばかりを追い求めていくと、大切なことを見落としがちです。バーニーにとって、ロンが手の焼ける面倒くさい存在でも、だんだんとかけがえのない相棒となっていくように、ポンコツなものには、ポンコツならではの魅力があります。
また、ポンコツなものが排除され、すべてが最適化された社会は息苦しさを招きがちです。バーニーとロンのコンビの活躍を描いた本作はこれからのIT化社会に一石を投じる注目の映画となりそうです。
(長野辰次)
●『ロン 僕のポンコツ・ボット』
監督/ジャン・フィリップ・ヴァイン、サラ・スミス
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン 2021年10月22日(金)より公開
(c)2021 20th Century Studios.All Rights Reserved.