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さらなる”ドラマ性”をーー池上遼一が切り拓いたマンガ表現と劇画の相互関係

ドラマ性を突き詰めて生まれた"劇画"

――”ドラマ性”が劇画のキーワードということでしょうか?

 劇画は手塚治虫先生の「ドラマ性重視」という考え方を突き詰めたものだと思います。「ドラマ性を突き詰めていくと、笑いがなくてもいいじゃないか」ということになる。マンガの読者対象の年齢が上がっていけば、もっとドラマ性の強いものが望まれるという考えで笑いを捨てる。そういう読者対象の違いによって、劇画が生まれたといってよいでしょう。

 こうしたマンガの流れから劇画が生まれました。しかし、劇画が一般化したのは青年コミック誌に登場してからですね。

 芳文社の平田昌兵さんという編集者によって『コミックmagazine』が創刊されたことでクローズアップされます。『コミックmagazine』は国内最初の青年誌ですが、貸本マンガ誌で活躍していた平田弘史先生らが人気となり劇画が一般化していきます。

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 劇画が少年マンガ週刊誌に登場するなかで、マンガに映像的な演出を持ち込んだ意欲作が、1968年に『週刊少年キング』に連載された『追跡者』です。

『追跡者』は、原作にテレビアニメ脚本家として活躍していた辻真先さんを起用、作画の池上遼一さんは、『月刊漫画ガロ』に読切作品『罪の意識』が掲載されたことをきっかけに作家に仲間入りしました。『月刊漫画ガロ』は、白土三平さんの『カムイ伝』をはじめ若手作家の実験的作品を多く扱っていた伝説的なマンガ誌です。

 立東舎から発売された『追跡者×拳銃野郎』(原稿散逸のため、印刷物から『追跡者』と『拳銃野郎』を復刻し収録・編集部注)の監修・編集をつとめた綿引勝美さんに、引き続き話を聞きました。

――『追跡者』において、具体的にはどのような演出が取り込まれたのでしょうか?

 辻先生はテレビアニメの脚本を数多く書いてらっしゃいます。『追跡者』はマンガ原作をお書きになった最初期のものなんです。だからでしょうか、どうしても映像寄りの演出になる。

『追跡者』の杭打ち機のシーン。音を描き出し、緊迫感を演出している。(c)MASAKI TSUJI (c)RYOICHI IKEGAMI(画像:立東舎)
『追跡者』の杭打ち機のシーン。音を描き出し、緊迫感を演出している。(c)MASAKI TSUJI (c)RYOICHI IKEGAMI(画像:立東舎)

 たとえばこれは、殺し屋に拳銃で狙われているスリリングなシーンを杭打ち機の「ドーン!」という音を重ねることで盛り上げています。

 このシーンは、松竹京都の映画『地獄の顔』で印象に残ったシーンがあって、いつかマンガでやろうと思ってあたためていたそうです。命を狙われて逃げ回る男の背景に流れるラジオの天気予報。非日常と日常の対比ですね。

電光ニュースの天気予報を流し、登場人物が対峙する時間の長さを表現。『追跡者×拳銃野郎』ではコラムでも演出を詳しく解説している。(c)MASAKI TSUJI (c)RYOICHI IKEGAMI(画像:立東舎)
電光ニュースの天気予報を流し、登場人物が対峙する時間の長さを表現。『追跡者×拳銃野郎』ではコラムでも演出を詳しく解説している。(c)MASAKI TSUJI (c)RYOICHI IKEGAMI(画像:立東舎)

 当時、電光ニュースというのは珍しくて、おもしろかったのですよ。マンガは絵。電光ニュースなら絵になると、辻先生は脚本にしたそうです。ところがマンガには動きがない。池上先生がどうしたかというと、2コマに分けて言葉をつなげることで、電光ニュースでの時間の経過を演出したんですね。

50年を経て復刻、池上遼一『追跡者』のスリルあふれるシーン(10枚)

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