「結婚した」は憶測…『水星の魔女』インタビュー記事の修正と「お詫び」に、ファンが激怒した理由
若い世代では同性婚支持が多数派

炎上は2段階で広がりました。紙版と電子版で記述が異なることが発見された段階と、それに対して公式見解で編集部の「憶測」による誤植だと発表された段階です。
憶測とは「いい加減な、根拠のない当て推量」という意味で否定的に使われることが多い単語です。憶測だから「結婚」という単語を削除するのは、ふたりが結婚したという解釈が憶測だと否定していると受け取られかねません。
しかし、作品を観ればごく普通にふたりが結婚したように見えるわけです。実際にそのように解釈した人が多かったからこそ、今回の件は大きな炎上となっています。公式の謝罪文には「本編をご覧いただいた皆様一人一人の捉え方、解釈にお任せし、作品をお楽しみいただきたい」とも書かれていますが、多くの人の解釈が憶測にされてしまったと言えます。
筆者としては、左手の薬指がしっかり描かれているわけですから、ふたりが結婚したという解釈に「根拠がない」とは思いません。インタビュイーが発言していない言葉を、記事担当者が「憶測」で書いたのかもわかりませんが、それは取材音源の文字起こしを読まねば何とも言えないところです。
個人的には、本編の結末に触れる部分ですので、放送終了から一カ月未満のタイミングならネタバレ防止の観点から監修することはあり得るとは思います。
筆者は同性婚訴訟の裁判の取材をしたことがありますが、原告の当事者の方がこう言っていました。「周囲の理解は進んでいるが、制度だけが壁になっている」と。
実際に2023年の世論調査では同性婚賛成が多数派です。プロデューサーの岡本拓也氏は、本作は「次の世代に向けた」ガンダムを作るというところから企画が始まったと語っています(※3)。同性婚というアジェンダは、世論調査を見る限り、若い世代には当然のこととして受け入れられており、特に30代以下の女性では9割以上が賛成という調査もあるくらいで(※4)、女性主人公で同性婚を描くガンダムはマーケティング的にもハマっていたとも言えます。他にも色々な要素があるでしょうが、本作のジェンダー表象も新世代のファンを獲得できた要因のひとつではないでしょうか。
小形尚弘エグゼクティブプロデューサーはニューヨークでの反響で「『ダイバーシティー(多様性)な作品だ』という声も聞きました」と本作が多様性の文脈で評価されていることを実感していたようですから、制作陣もここに作品のストロングポイントがあることは認識していたのだと思います(※5)。ならば、広報戦略として、ネタバレを気にしないならスレッタとミオリネの結婚を押し出すという考えも、2023年現在なら「全然あり」ではないでしょうか。
●アニメ作品の本質は広報か、作品か
広報がどうあろうと、画面は不変であり、アニメ作品の本質は広報の言葉よりも映像の中にあります。アニメの画面は、基本的に全て作り手の意図したものであり、夕日に照らされ輝く左手の薬指も、偶然写り込んだものではありません。
こういうとき、筆者は常に作品外の言葉よりも映像を信じます。アニメ制作者たちは、基本的に絵の力を信じている人たちのはずです。そういう人たちの作った絵を、私たちはしっかり受け止めることが最も大切なことだと筆者は考えます。
(杉本穂高)
※1:『機動戦士ガンダム 水星の魔女』公式サイト「月刊ガンダムエース2023年9月号掲載のインタビュー記事についてのお詫び」
※2: 「数十年後も残るようなガンダムにしたい」という監督の言葉を受けて生まれたデザインの数々──『機動戦士ガンダム 水星の魔女』モグモ(キャラクターデザイン原案)インタビュー(アキバ総研)
※3: 「ガンダムは僕らに向けたものじゃない」10代のリアルな言葉に衝撃を受けて──『機動戦士ガンダム 水星の魔女』岡本拓也プロデューサーインタビュー前編(アキバ総研)
※4:同性婚「賛成」63%、30歳未満女性の9割以上が「賛成」 JNN世論調査(TBS NEWS DIG)
※5:機動戦士ガンダム 水星の魔女:新規ファン開拓に手応え ガンダムらしく奥深さも(MANTANWEB)
※本文の一部を修正しました。(2023.8.4 10:35)