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【漫画】祖父は戦後に「怪物」をもらった… 学校で語られない実体験が「苦しい」

戦争中の満州で暮らしていた祖父をもつ漫画家の尾添さん。通訳の業務に従事していた祖父は、満洲では暴力や差別が当たり前だったと語ります。パルチザンによる銃撃を受けるなど、さまざまな暴力を経験した祖父には、戦後も恐ろしい“殺し屋”がつきまとっていて……。作者の尾添椿さんにお話を聞きました。

暴力を娯楽と思い込むしかなかった実情

戦時中のトラウマによってPTSDを発症させてしまった男性とその家族(尾添椿さん提供)
戦時中のトラウマによってPTSDを発症させてしまった男性とその家族(尾添椿さん提供)

 漫画家である尾添さんの祖父は、戦争中の満州で通訳に従事していました。しかし現場は暴力と差別が横行し、悲惨な拷問をたびたび目の当たりにしたそうです。不意の銃撃や病気に侵されてしまった祖父は、衰退しながらも無事に帰国することになり、後に戦争も終幕を迎えます。

 良縁に恵まれた祖父は、家族と第二の人生をスタートしたかに思えましたが、戦争の過酷な暮らしに心を蝕まれていた祖父はPTSDを発症してしまい、“最強の殺し屋”におびえる日々を過ごしていて……?

 尾添椿さん(@ozoekkk)によるエッセイマンガ『祖父から聞いた満州と戦争の話』がX(現:Twitter)上で公開されました。いいね数は5,000を超えており、読者からは「家とは絶縁済みの著者がいうからこそ、説得力が違う」「虐待のトラウマは世代を超えて連鎖するんですね」「うちの祖父は戦場返りで弱さを認めませんでした。戦争は悲惨ですね」などの声があがっています。

 尾添椿さんは漫画家として活動しており、今作以外にも、心理的虐待に支配された家庭から分籍・閲覧制限を使って法的に絶縁するまでを描いたエッセイマンガ『生きるために毒親から逃げました。』(イースト・プレス)を2021年2月17日に発売、虐待被害者が毒親と決別するまでを描いたエッセイマンガ『それって、愛情ですか?-毒親と決別してみた-』(KADOKAWA)が2024年1月22日に発売されています。

 作者の尾添椿さんにお話を聞きました。

ーー今作『祖父から聞いた満州と戦争の話』を描こうと思ったきっかけを教えて下さい。

 昨年度末に戸籍謄本を取る機会がありました。そのときに両親の名前が目に入って、家のことを漠然と思い出してみたら祖父母に関することを忘れかけていることに気付いて「忘れないうちに描こう」と思いました。

 今でこそ毒親のことを笑って話せますが、それはトラウマ治療をしたからであって数年前は親の名前を見るだけで殺意が止まらなかったです。

 あの「殺意が止まらない」状態も、祖父と同じPTSDだな……と。私は治療できたけど、祖父は心療内科にかかることもできないまま亡くなった。その背景はどんなものだったろうと思い出したことがきっかけです。

ーー実際に壮絶な戦争やPTSDを経験されたご親族の貴重なエピソードを共有して下さりありがとうございます。今作を描くうえで気を付けたことや工夫した点などはありますか?

 祖父の話では、現地は暴力だけでなく差別も横行していたので、そこはエピソードとして省いて絵で伝わればいいと思いながら描きました。暴力が横行して余裕がなくなると人はどう順応していくか、順応から解放された人はときに心を病んでしまうことがある事実に重点を置きました。

祖父が経験した戦争を赤裸々に記録した『祖父から聞いた満洲と戦争の話: トラウマとPTSD』(尾添椿さん提供)
祖父が経験した戦争を赤裸々に記録した『祖父から聞いた満洲と戦争の話: トラウマとPTSD』(尾添椿さん提供)

ーーたくさんの感想が寄せられています。特に印象に残った読者のコメントはありましたか?

「大人の責任を子供が負うだけじゃない。他人に同情できなくなったら戦争は始まっている。酷いことは国民の余裕をなくしてから起きるもんだ。急に世の中が変化したら気を付けろよ」という言葉への共感が多かったです。「自分の祖父母も満州にいたけど、そこでのことを言おうとしなかった」という意見でしょうか。祖父が見た光景は存在したんだろうな、と思いました。

ーートラウマ治療が進んだ現在でも、個人の虐待に対する認識の差などもあり、誰でも被害者にも加害者にもなりうることだと考えさせられます。まだ解決しない問題はたくさんありますが、改めて今作に込めた思いや、伝えたいことなどがあれば教えて下さい。

 自責という概念と、加害者を許す風潮はなくなってほしいです。よく「加害者は悲惨な生い立ちがあった」と報道されることがありますけれど、あれは同情を誘うだけなのでなくていいと思っていて。祖父が「同情は救いにならない」と言っていたのが印象的で、同情だけじゃ何も解決しないんです。問題に取り組むのは判断を下す側の仕事なので、関係のない人は興味があれば調べるくらいでいい。被害者の未来だけが大切。

 祖父の世代は、多くの人が苦しみを語らずに亡くなりました。語らなかった大きな理由としては、みんな自責をどこかで抱えたんだろうと感じています。もちろん祖父も。自責の連鎖を止めて、これからを生きる人が笑顔で過ごせるように、まずは今いる加害者に厳罰を与えてほしいです。

ーーKindleにて配信中の今作『祖父から聞いた満洲と戦争の話: トラウマとPTSD』は、多くの人が戦争やPTSDを考えるきっかけになる作品だと思います。改めてあらすじや見どころを教えて下さい。

 小学5年生の私が「ボケてるんだろう」と生半可な気持ちで聴いた祖父の話が確かなものだった話です。毒親マンガを描くにあたりいろいろな方に取材をして、どんな酷い家庭の話を聞いても平然としていられるきっかけになった出来事も描きました。

 X(旧:Twitter)にポストしたものを加筆修正して、気軽に見返せるようにkindleにまとめて投稿しました。多くの人に読んでもらえるとうれしいです。描き終わってkindleに公開してから、忘れていた祖父の話を思い出したりして10あった話が7しか思い出せない状態から8.5くらい思い出せました。人の脳って不思議ですね。

ーー今後はどのような創作活動をされる予定ですか?

 漫画家なのでマンガを描きます。毒親家庭を取材し探っていくと根底に戦争が見え隠れすることがあっても、今まで気にすることがなかったのは戦争と毒親が似ているからでした。どちらも人権を蹂躙(じゅうりん)するし目を背けたくなるようなことばかり起こします。漫画家の私が描いたマンガからつながることがあれば、積極的にやりたいです。

(マグミクス編集部)

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