マンガ界の「残酷さ」を描いた実写映画4選 「よそよそしくなる編集者」に恐怖…!
人気マンガの映像化は数多く企画されていますが、その裏側にはマンガ家たちの人知れぬ苦悩が隠されています。2024年3月22日に劇場アニメ『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』が公開された浅野いにおさん原作の『零落』をはじめ、創作に苦悩する漫画家の生活をリアルに描いた実写映画を紹介します。
「個人事業主」でもある漫画家の苦闘

マンガは今や日本を代表する文化として、海外でも広く親しまれています。また、人気マンガが実写映画化やTVドラマ化されるたびに、大きな話題を集めます。その一方、原作となるマンガをゼロから生み出す漫画家たちの苦悩を知る機会は、とても限られています。
TVドラマ化や映画化もされた『海猿』や『ブラックジャックによろしく』で知られる漫画家の佐藤秀峰氏は、著書『漫画貧乏』(PHP研究所)のなかで個人事業主である漫画家の過酷さについて明かしています。複数のアシスタントを抱えてのマンガ連載は、単行本がベストセラーにならない限り、収支は赤字だそうです。「連載貧乏」という言葉もあると言います。
漫画家はデビューまでが大変と思いきや、デビュー後はますますハードな業界のようです。そんな漫画家たちが苦闘する姿をシビアに描いた実写映画を紹介します。
新作が描けなくなってしまう『零落』
斎藤工さんが主演し、竹中直人さんが監督した『零落』(2023年)は、浅野いにお氏の同名コミックを実写映画化した作品です。漫画家の深澤薫を斎藤さん、深澤がのめり込む風俗嬢をNHK連続テレビ小説『ブギウギ』でブレイク中の趣里さんが演じています。
深澤(斎藤工)はベストセラーを生み出した人気漫画家ですが、8年間にわたる連載が終わった後、新作のアイデアが浮かびません。前作を超えるヒット作にしなくては……と考えれば考えるほど焦りを覚え、マンガを描けなくなってしまいます。
出版社の担当編集者は、他の漫画家との打ち合わせに時間を費やすようになり、自分に対してよそよそしくなったように深澤は感じます。編集者でもある妻(MEGUMI)との関係もギクシャクし、アシスタント(山下リオ)からは「パワハラで訴えます」と脅されます。仕事を失った漫画家の恐怖感が、ありありと伝わってきます。
精神的にどんどん不安定になっていく深澤は、風俗嬢のちふゆ(趣里)にハマっていきます。マンガに興味のないちふゆと過ごす時間だけ、癒しを感じる深澤でした。
漫画家のナイーブな内面を、斎藤さんが繊細に演じています。猫顔の風俗嬢・ちふゆを演じた趣里さんはとてもセクシーです。つげ義春氏原作の『無能の人』(1991年)で監督デビューした竹中直人さんの、仕事や人間関係につまずいたダメ人間に対する優しさを感じさせる好編となっています。