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後継機登場でも「初代スイッチ」が“お払い箱”にならないワケ 任天堂決算資料で明らかとなった驚愕事実

ライバル機との性能差が目立ち、マルチプラットフォームにも選ばれにくくなったNintendo Switch。しかし、性能だけがゲーム機の価値ではありません。いまもなお支持を集める実態が、2025年3月期決算から垣間見えます。

「時代遅れ」ではなく、時代に合わせた立ち位置を確立?

性能面では劣るが、市場やユーザーの一定層が「スイッチ」を未だに求めている
性能面では劣るが、市場やユーザーの一定層が「スイッチ」を未だに求めている

 任天堂が2017年3月に発売した「Nintendo Switch」(以下、スイッチ)は、8年にわたってゲーム業界の最前線を走り続け、2025年3月末時点で1億5212万台もの販売実績を積み上げました。

 その人気ぶりは疑うまでもありません。ただし8年前のゲーム機なので、特に性能面では物足りなさが目立つようになり、「スイッチは時代遅れ」といった声をネット上でも見かけます。本当に、スイッチは時代遅れなのでしょうか。

●今期の減収減益は、「スイッチの不人気」には当たらず

 現在の任天堂の売り上げは、スイッチを主軸としています。そして、5月8日に公開された2025年3月期決算を見ると、今期の売上高は前期比で約30%減、営業利益や当期純利益は40%以上も減る形となりました。

 しかし今期の減収減益は、スイッチが市場から見限られたわけではなく、注力の方向が変わったためと考えられます。後継機の「Nintendo Switch2」(以下、スイッチ2)が2025年6月5日に発売されるため、任天堂のリソースは後継機に注力しているはず。その分スイッチのラインナップが弱くなり、今期の売上高に響くのは当然の話に過ぎません。

 スイッチ本体の販売台数も前期と比べて下がっていますが、これも伸び悩みではなく、普及層にほぼ行き渡った結果と考えられます。家庭用ゲーム機で最も売れたと言われている「PlayStation 2」の販売台数は1億6000万台、現状のスイッチがほぼ同程度に近づいており、この辺りが普及の上限だとすれば販売台数が年々下がっていくのも自明の理でしょう。

●旧作だけでミリオン連発、独自の強みを発揮するスイッチ

 性能面を見れば、スイッチでは物足りない場面が目立ちます。いま現在のハイスペックな環境を求める最先端のゲームは、おそらくスイッチで遊ぶ機会はなさそうです。ただしスイッチの存在意義は、最先端のゲームの有無だけで左右されるわけではありません。

 肝心なのは、一定数のユーザーがスイッチを必要としているか否か。その実態を正確にはかるのは困難ですが、任天堂の2025年3月期決算説明資料から肯定的な材料を見つけることはできます。

 今期発売された新作が何本もミリオン入りを果たしており、これも見事な成果ですが、今回注目したいのは今期より前に発売された作品について。本稿では分かりやすく「旧作」と表現させていただきます。

 ゲームは発売初期が最も売れやすく、ある程度時間が経つと売り上げが大きく下がるため、何かきっかけでもない限り旧作が翌年以降も売れるのは難しい状況です。しかし今回の決算では、8年も前に発売されたスイッチソフト『マリオカート8 デラックス』が、過去1年だけで623万本もの売り上げを記録しています。

『マリオカート8 デラックス』は今期だけでなく、発売以降の決算資料にたびたび顔を出し、その都度ミリオンを叩き出しています。そして、このゲームを遊べる機器は、いま現在はスイッチだけなのです。

『マリオカート8 デラックス』ほどではなくとも、こうした実例はひとつだけではありません。『Nintendo Switch Sports』は今期だけで316万本(2022年発売)、『あつまれ どうぶつの森』は247万本(2020年発売)、このほかにも『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』202万本(2018年発売)、『スーパーマリオ オデッセイ』133万本(2017年発売)など、3年前から8年前までいくつもの旧作が、今期だけでミリオンを達成しています。

 このほかにもミリオン越えの旧作は何本も存在しており、名作群を求めるスイッチユーザーが「いまも一定数いる」ことが十分うかがえます。これだけ旧作が活発に動いているスイッチに驚きを隠せません。

 新作のゲームが売れるのは(それも凄いことですが)、当然といえば当然の話です。しかし、旧作がこれだけ売れ続けている事実を踏まえるに、スイッチは時代遅れなどでは決してなく、未だに現役で求められているともいえます。

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 ハイスペックを要求するゲームは遊べなくとも、これまでに積み上げたラインナップが遊べるスイッチは、いまも多くのユーザーを楽しませています。PCやPlayStation 5で最新のゲームをプレイしながら、独占タイトルの多いスイッチをサブ機として活躍させる──というスタイルも、今回の決算を見るにまだまだ根強く続きそうです。

 さらに後継機で互換機能があるスイッチ2登場で、スイッチはお払い箱になるかといえば、そうともいえません。スイッチ2発売後はサブ機だけではなく、「おすそわけ通信」によるマルチプレイやダウンロードゲームの貸し借りといった連携機能により、遊びの幅をいっそう広げる役目も担えることでしょう。

 加えて、子供が野外に持ち出すゲーム機としては比較的安価という立ち位置など、スイッチならではの独自性はいまなお健在です。性能面こそ譲るものの、時代遅れどころか「時代に合わせて立ち位置を変えられる」という強みこそが、スイッチの真価なのかもしれません。

(臥待)

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臥待

雑食系ゲームライター。ファミコン時代のクラシックゲームから現行機まで幅広くアクセスし、TRPGやゲームブックなどアナログ系にも手を出しながら、様々な「面白さ」の探求を日々続ける雑食系ライター。「「隠れた名作」を隠れさせることなく広く知らしめたい」という密かな野望を持っており、ユニークな依頼を万年受付中。