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『ガンダム』性暴力、自死、爆弾で吹き飛ぶ足…小説版『08MS小隊』が問う「戦争フィクションの罪」

小説版『08MS小隊』で衝撃描写が必要だったワケ

『機動戦士ガンダム 第08MS小隊(上)』原案:矢立肇/著:大河内 一楼(角川スニーカー文庫)
『機動戦士ガンダム 第08MS小隊(上)』原案:矢立肇/著:大河内 一楼(角川スニーカー文庫)

 このキキの悲劇は小説版において、主人公シローの重要な変節のきっかけとなります。

 小説版のシローはアニメ版とは異なり、「キャプテン・ジョー」という戦争ドラマが大好きという設定になっています。第一章「出撃」の冒頭は、このドラマをシローが見ており、ジョーの華々しい活躍が描写されるところから始まるのです。シローが子供の頃から続く人気シリーズで、対戦車ロケットでモビルスーツを倒してしまうという描写がされていて、実際の戦場でシローがこれを真似して戦果を挙げて評価されるという展開も描かれます。

 このドラマは戦意高揚ドラマとされていて、戦場をカッコよく、兵士をヒーローとして描く内容で、シローは純粋にジョーに憧れているのです。このドラマと過去の経験から、シローはジオンを素朴に悪とみなしており、この戦争は正義のためだと信じています。

 そんなシローの考えが変わるきっかけがキキの悲劇です。連邦の兵士による性暴力という現実を知ったシローは、「自分がしていたはずの正義の戦争は、ただの殺し合いにすぎなかったのだと」気づき、「正義の戦争なんてものは、どこにもないのだと」(中巻、P242)考えが変わっていくのです。

 フィクションのドラマの影響でシローは戦争をカッコいいものだと思っていました。そんなシローがキキの事件をきっかけに「キャプテン・ジョー」を嫌いになり、そんなプロパガンダに乗せられて戦争をしていた自分を見つめ直すようになります。キキの悲劇は、本物の戦争をフィクションと同じように考えていたシローに、現実を突き詰めるためのエピソードとして描かれているわけです。

 本作はこれ以外にも、ゲリラの村の幼い少女が仕掛けられた爆弾で足が吹き飛んでしまうといった描写もあり、容赦のない過酷な戦場が書き連ねられます。

 こうした描写の数々によって『08MS小隊』の小説版は、アニメ版以上に生々しい戦場を描いているといえるでしょう。

●戦争を娯楽フィクションで描くことの葛藤

 主人公がフィクションの戦場ドラマに影響を受けている設定によって、この小説版は「フィクションで戦争を知ることの難しさ」という、アニメ版にはない視点が加わっています。戦争をニュースやフィクションでしか知らない世代が日本ではすでに大多数ですから、本書の姿勢はとても大切なものだと思います。日本では、制作者も鑑賞者も戦争を直接知らない世代になっています。

 もしかしたら「ガンダム」シリーズを見て、戦場で戦うヒーローに憧れる人もいるかもしれませんが、本書はそういう姿勢を戒めるように書かれているように思います。「ガンダム」シリーズはリアルロボットアニメと呼ばれて、それ以前のロボットアニメと異なり、戦いのリアリティーを高めたという評価があるものの、それでも本物の戦場とは異なるわけです。

「戦争自体、殺人という巨大な犯罪」(下巻、P22)という作中の言葉通り、戦争には正義はなく、多くの人間を犠牲にする犯罪であると描いていることが、アニメ版と決定的に異なる部分です。

 娯楽作品である以上、カッコよさは必要です。しかし、作り手は「戦場に憧れを持つような作品でいいのか」という葛藤を少なからず持つのではないでしょうか。むしろ、そういう葛藤こそ持つべきなのかもしれません。

 戦争をフィクションで分かったつもりになっている主人公が現実を突きつけられる――そんなフィクションを通じて、小説版『08MS小隊』は「この本を読んで戦争を分かったつもりになってはいけない」と語っているように思えます。

(杉本穂高)

【画像】えっ、こんな可愛い少女が“性暴力”…こちらが小説版でヒドイ目にあう『ガンダム』ヒロインです(4枚)

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