『ガンダム』性暴力、自死、爆弾で吹き飛ぶ足…小説版『08MS小隊』が問う「戦争フィクションの罪」
「ファーストガンダム」と同じく、一年戦争時のアナザーストーリーを描いた『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』。アニメ脚本家として数多くの作品に携わる大河内一楼氏の小説版は、独自の展開を見せており、アニメ版を知る読者にとってはややショッキングな内容となっています。小説版に込められた意図とは?
アニメ勢は知らない衝撃展開

富野由悠季監督が生み出した「機動戦士ガンダム」シリーズは、アニメだけでなく小説でも展開されています。しかし、その内容はアニメ版と異なる小説独自の展開を見せることがあります。
例えば、富野監督自身が執筆した小説版『機動戦士ガンダム』(角川スニーカー文庫)は、主人公の「アムロ・レイ」が最初から地球連邦軍に所属しているなど設定が一部異なるだけでなく、物語の途中でアムロと「セイラ・マス」とのベッドシーンが描かれるなど、より刺激的な内容となっています。さらには、最後にアムロが死亡するという、アニメとはまるで異なる展開を見せることで、読者を驚かせました。
そんな「ガンダム」シリーズの小説版で、アニメ版と異なる展開をするのは初代『ガンダム』だけではありません。
現在はアニメ脚本家として数多くの作品に携わる大河内一楼氏の『機動戦士ガンダム 第08MS小隊(以下:08MS小隊)』(角川スニーカー文庫)も独自の展開を見せており、アニメ版を知る読者にとってはややショッキングな内容となっています。
しかし、それにより小説版は、戦争をフィクションとして描くことに対する葛藤や大切な姿勢が込められているように思うのです。
●泥臭い戦場を描く『08MS小隊』
『08MS小隊』は、『機動戦士ガンダム』と同じく宇宙世紀0079を舞台にした「一年戦争」のサイドストーリーを描いた作品です。地球連邦軍の青年士官「シロー・アマダ」少尉が東南アジア戦線の08MS小隊の隊長に任命され、泥臭い密林を舞台に生々しい戦場を描く内容です。物語は、シローとジオン軍のテストパイロット「アイナ・サハリン」との許されぬ恋が中心となり、人間臭い08MS小隊の連中や、密林の村に暮らす少女「キキ・ロジータ」たちとの交流などが描かれます。
赴任先に向かう途中で戦闘に巻き込まれたシローはアイナと出会い、地上の戦場で偶然の再開を果たしますが、そのことでスパイ容疑をかけられるも兄に操られるアイナを救うために行動する姿を、ヒロイックに描いた作品といえます。ニュータイプのような超常的な能力は描かれず、泥臭い戦場をリアルに描写している点も特徴です。
アニメ版は全12話のOVAとして展開され、劇場版『機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート』も制作されています。なお、2024年にNetflixで配信された『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』に、本作のあるキャラクターが登場することで注目されました。
●キキに訪れる悲劇
小説版の特徴は、ベトナム戦争を思わせるような密林を舞台にして地球連邦軍とジオン軍の戦いが描かれる点です。その両者の戦いの犠牲になるのが、密林にある村の人々です。彼らは、ジオンの支配を拒みつつも連邦からの自立も求めて戦っています。そんな村の村長の娘キキはゲリラを組織し、連邦ともジオンとも対立しています。しかし、作中で軍人らしからぬ理想主義的なシローに惹かれていき08MS小隊と協力関係となっていくのです。
快活な少女であるキキは、アニメ版では重要キャラクターのひとりとして活躍を見せます。しかし、小説版においては物語の途中で、連邦軍の兵士から性暴力を受け、舌をかみ切って自死するというショッキングな展開が描かれるのです。
アニメ版では最後まで08MS小隊に協力し、隊員のひとり「ミケル・ニノリッチ」と良い仲になっている描写も見られるだけに、この描写の落差に驚く読者は多いでしょう。
なぜ、このような描写が必要とされたのでしょうか。


