『ばけばけ』三之丞は今後トキに「お金を返せる」のか モデル人物が得意だったことで成功する「ifルート」はあり得る?
朝ドラ『ばけばけ』三之丞は、これからもトキから生活費を貰うそうです。今後の彼は、成長できるのでしょうか。
三之丞は変われるのか

2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は『知られぬ日本の面影』『怪談』などの名作文学を残した小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)さんと、彼を支え、さまざまな怪談を語った妻の小泉セツさんがモデルの物語です。
第7週では主人公「松野トキ(演:高石あかり)」が、未来の夫である松江中学の英語教師「レフカダ・ヘブン(演:トミー・バストウ)」の女中として働き始めています。彼女は今後、借金を抱えた松野家も、物乞いをしている実母の「雨清水タエ(演:北川景子)」も、働き口が見付からない弟の「三之丞(演:板垣李光人)」のことも、ひとりで支えていくことになりました。
トキはヘブンの「洋妾(ラシャメン)」ではなく、あくまで普通の女中として月20円も貰えます。そんなトキは31話で月給の半分の10円を三之丞に渡しましたが、彼は記者の「梶谷吾郎(演:岩崎う大)」に払った口止め料の1円以外は、そのお金を使うことができませんでした。
35話でトキは「自分の力で母を助けたい」と、残った9円を返そうとする三之丞に対し、そんなことを言っている場合ではないと再度お金を受け取らせます。そして、トキは彼に「おば様をお救いしたいのなら、自分を捨ててこれ貰って!でもそれでも、自分で何とかしたいなら、必死で働いていつかこのお金返してよ」と言い放ちました。
三之丞は現状、方々を回って「社長にしてください」と無茶なお願いを繰り返しているだけですが、今後はまともに働いてトキにお金を返すことができるのでしょうか。
※ここから先の記事では『ばけばけ』のネタバレにつながる情報に触れています。
三之丞のモデルである、小泉セツさんの弟・小泉藤三郎さんは、かなりの問題人物だったといわれています。彼が起こしたトラブルのなかでも特に大きいのは、セツさんとラフカディオ・ハーンさんが結婚後に松江を離れていた間に、生活に困って小泉家の先祖代々の墓を売り払ってしまったことです。
そんな藤三郎さんは1900年7月頃、東京に移住していたセツさんたちの家にやってきます。藤三郎さんはしばらく東京の小泉家に住まわせてもらい、就職口も世話してもらおうと思っていたそうですが、ハーンさんは墓を売った彼を許していませんでした。
ハーンさんとセツさんの長男・小泉一雄の書籍『父小泉八雲』によると、彼は藤三郎さんに対し、「あなた武士(サムライ)の子です。先祖の墓食べるの鬼となりましょうよりは、なぜ墓の前で腹切りしませんでしたか? 日本人ないの日本人は私は親類ではありません。さよなら、直ぐ帰りなさい!」と怒鳴りつけたといいます。
その後、藤三郎さんは東京を離れてセツさんたちの前に姿を現さなくなり、1916年に松江の小泉家本家の近くの空き家で孤独死しているのが発見されました(享年45歳)。
一雄さんは『父小泉八雲』のなかで、藤三郎さんに関して「変な病気があった。精神分裂症であった」「物事に頗る(すこぶる)熱中するくせに突如それに手を触れるのさへ嫌になって知らぬ顔をするのであった」「この病気の発作は何時も余りに突然で余りに変化がはなはだしかった」と語っています。
ただ、藤三郎さんは昔から学校をさぼっては野山に行って鳥を捕まえ、飼育して卵を孵化させることにも成功するなど、「特別な才能」も持っていました。
また、藤三郎さんは背は低かったものの「色白で切長の眼、鼻筋の通った」美青年だったそうです。彼は一時期役者の道に進み、関西で興行をしていた新派劇(1888年に始まった日本の演劇の一派)の創始者・川上音二郎さんの一座の下っ端になり、ある劇ではメインの探偵役を貰いました。
しかし、その劇で「病気の発作」が出てしまったのか、彼はセリフを言わないどころか、周りの役者に何か言わせようと膝をつつかれると「何をするッ!」と怒鳴り、話を振られても「知らん」と天井を眺めていたといいます。当然ながら観客から顰蹙(ひんしゅく)を買い、役者は続けられなくなってしまいました。
しかし、藤三郎さんは確かな演技の才能も持っていたようです。前述の東京来訪の際、彼は一雄さんほか子供たちの前で、さまざまな仮装を披露しました。なかでも藤三郎さんが自分でメイクを施した「乞食姿」は、異様な説得力があったそうです。一雄さんは『父小泉八雲』で、「真に迫って気味悪く思った」「まだ満三十歳にはなっていなかった彼が、確かに六十歳近い汚い乞食お爺に化け遂せていた」と振り返っています。
『ばけばけ』35話の放送後、視聴者の間では今後の三之丞がまともに独り立ちしていくのか、それともこれからもトキから受け取る生活費に依存して藤三郎さんのように落ちぶれていくのか、予想や心配の声が出ていました。
たとえば、三之丞がこれから藤三郎さんが叶わなかった「鳥の飼育」や、「俳優業」で生計を立てることに成功すれば熱い展開といえますが、果たしてどうなるのでしょうか。
※高石あかりさんの「高」は「はしごだか」
参考書籍:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(潮出版社)、『父小泉八雲』(小山書店)
(マグミクス編集部)
