劇場版『鬼滅の刃』1000億円突破は「世界の映画史を塗り替えるレベル」 背景には戦略的要因も
世界で「まんべんなく売れている」ことが土台に

さらに、『無限城編』のすごいところは、どこか特定の国だけでヒットしているのではなく、世界中でまんべんなく売れているところです。
前述のBox Office Mojoで、ハリウッド作品の北米市場でのシェア率を見ると、おおむね30%から40%前後を北米市場で稼いでいることがわかります。世界的に普及している作品はだいたいそれくらいのシェア率で推移するということです。
『無限城編』は現在、日本で379億円の興行収入ですから、世界興行収入における日本のシェアはだいたい37%くらいで、国内4割弱、海外6割強という、大ヒットしたハリウッド映画と同じくらいの割合となっています。ちなみに『無限城編』世界興収の北米シェアは18.3%で、中国では公開が始まったばかり。つまり、世界でまんべんなく売れていないと、1000億円という数字は出せないのです。
この成績は『スパイダーマン』シリーズなどを配給してきたソニー・ピクチャーズが同作の配給を担当していることも大きな要因と思われます。ハリウッドメジャー会社の世界中の配給網を使えることで、世界中の劇場でブッキングできるのでしょう。しかし、『鬼滅の刃』ひいては日本アニメ自体の人気が下支えしているのも間違いないでしょう。
強力なライバル不在の時期にあえて展開
ちなみに『無限城編』は世界で大掛かりなプロモーション展開を行っています。プロモーション費がどれほどなのかは発表されていませんが、世界レベルの興行ですから、相当な金額が投入されていると思います。
筆者は今年2025年のカンヌ国際映画祭に行きましたが、会場近くの大きなモニターで同作の予告が流れているのを見かけました。アメリカ版の吹替にはチャニング・テイタムという大スターも起用されています。またロサンゼルス・ドジャースとのコラボも実施、アメリカ最大級のポップカルチャーのコンベンションであるサンディエゴのコミコンでは、6000人収容の最大ステージでイベントを行うなど、アメリカではさまざまなキャンペーンを展開していました。
ハリウッドの大作映画では、プロモーション費用だけで100億円を超える作品も珍しくありませんが、この1作だけ大がかりに宣伝したところで、元々のファン層が厚くなければ、どれだけ頑張ってもこれほどの大ヒットにはならなかったでしょう。実際、100億円かけてもコケた映画はいっぱいあります。その意味で、『無限城編』の大ヒットは、これまで積み上げてきたシリーズの魅力が世界に認識されたことの証明と言えると思います。
また、世界公開が本格的に始まった時期、強力なライバルとなるようなハリウッド映画が少なかったことも「追い風要因」として考えられます。日本では夏休みの目玉として公開されましたが、アメリカではオフシーズンの9月に封切られており、これはソニー・ピクチャーズがそういうタイミングを狙って公開したのだと推察されます。アニメ作品は、ホリデーシーズンに家族みんなで見に行くというより、熱狂的なファンが劇場に訪れるものなので、いつ公開してもある程度の興行が見込まれるのでしょう。
しかも、『無限城編』のすごいところは、これが3部作の1本に過ぎないということです。今後、さらにファンベースが拡大すれば、2作目、3作目はさらに大きな興行収入を記録する可能性があります。この3部作の興行がどこまで伸びるのか、ひょっとして『スター・ウォーズ』や『ロード・オブ・ザ・リング』3部作のように世界を席巻することになるかもしれません。
(杉本穂高)




