当時の法律は…『ばけばけ』日本人になる決意をしたヘブン ハーンが小泉八雲になった背景にあったものとは
連続テレビ小説『ばけばけ』110話では、ついにトキとヘブンに子供が産まれました。そして、ヘブンはついに日本人になる決意を固めます。
結婚したばかりの頃に帰化を考えていた

放送中の連続テレビ小説『ばけばけ』23週111話では、主人公「松野トキ(演:高石あかり)」と夫「レフカダ・ヘブン(演:トミー・バストウ)」が、生まれたばかりの息子「勘太」の籍をどうするか、市役所の人間と話し合う場面がありました。
市役所の職員の説明では、ヘブンの籍にトキと勘太が入ると全員イギリス人となるものの、ヘブンが亡くなった場合、遺産はトキたち家族ではなく、すべてイギリスに行ってしまうそうです。逆にヘブンと勘太がトキの戸籍に入り、日本人となれば、ヘブンは外国人としての特権を失うと説明されました。
どちらの選択肢でも良し悪しがあるなか、111話の最後でヘブンは日本人となると決めます。モデルのラフカディオ・ハーンも、1896年2月に妻・小泉セツと正式な夫婦となり、彼女を戸主とする小泉家の分家に入って日本人「小泉八雲」となりました。
ハーンが帰化したのは、もちろん日本を愛していたからというのもありますが、主な理由はセツと長男・一雄(1893年11月17日生まれ)に遺産を残すためだったというのが定説です。一雄本人も、1931年に著書『父「八雲」を憶う』で、「長男一雄(自分)が生れたがために父は思い切って日本に帰化した」と断言しています。
幼い頃に父・チャールズ(アイルランド人)と母・ローザ(ギリシャ人)が離婚したハーンには、アメリカに住む弟のジェームズ・ハーンがおり、さらにイギリスにも父と再婚相手の間に生まれた異母妹ミンニー・アトキンソンがいました。ハーンが帰化して日本人にならなければ、死後は弟たちに遺産が渡ってしまう状況だったのです。
ハーンが熊本で親交を深めた雨森信成という文化人は、ハーンが1904年9月に死去した後、1905年にアメリカの雑誌『アトランティック・マンスリー』に「人間ラフカディオ・ハーン」という追悼文を書きました。そこには
「彼が帰化して日本国民になったのは、ただただ、生存が彼にかかっている『より幸福なほかの者たち』のためだったのである。条約改正が発効する前、列強が治外法権を持っていた時期のことで(領事裁判権が撤廃された日米通商航海条約の発効は1899年7月)、日本女性を妻に持つ外国人の遺言適応のない財産は、日本の遺族ではなく、本国の親族の手に渡ることになっていた。ハーンはこの事を知っていたがために、帰化することによって議論の余地なく、己がかくばかり愛する家族に、遺贈されるように望んだのである」
と綴られています。雨森はハーンから帰化や相続について相談されていた知人のひとりであり、横浜に住んでいた時期に、当時の国際結婚の事情について詳しくなった人物でした。
また、ハーンは1891年夏にセツと夫婦になったばかりの頃、すでにアメリカのニューオーリンズ時代の上司ペイジ・ベイカー宛の手紙で
「いずれ私は日本に帰化することになるだろうと思います。現行の法律では、英国の法律により外国人と結婚した日本女性は、その時点で英国籍になり、子供があれば、それも英国人扱いになります」
と、日本人になる予定や、当時の法制について語っています。もともと帰化を考えていたなかで、一雄の誕生が決定打になったということでしょう。
ハーンの母・ローザは彼を産んで2年後に、夫・チャールズの故郷であるアイルランドのダブリンに移住しました。しかし、暖かいギリシャの風土に慣れ親しんでいたローザは、現地の生活になじめず精神を病んでしまったそうです。そしてローザはまだ4歳のハーンを置いてギリシャに帰国し、晩年も神経を病んで死ぬまで10年も闘病したといいます。
生涯を通じて母に同情的だったというハーンは、セツをそのような目にあわせたくなかったのか、異母妹・ミンニーや、知人の東京帝国大学教授バジル・ホール・チェンバレンへの書簡にて、セツを外国に連れていくのは不可能で、日本以外で家庭を営むのはありえないという旨を語っていました。
そんなハーンはセツや家族、親戚、親友・西田千太郎(「錦織友一」のモデル)ほかさまざまな知人たちの力を借りて帰化に動き出したものの、実際に日本人になれたのは一雄が生まれてから2年3か月後です。それだけ手続きは複雑でした。
23週では、ヘブンたちが家族になるために松江の市役所まで行くそうですが、手続きに苦労することが予想されます。
※高石あかりさんの「高」は「はしごだか」
参考書籍:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(潮出版社)、『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』(中央公論新社)、『小泉八雲 漂泊の作家 ラフカディオ・ハーンの生涯』(毎日新聞出版)、『父「八雲」を憶う』(千歳出版)
(マグミクス編集部)

