『聖闘士星矢』アニメ独自の「アスガルド編」成功の理由。背景に「早すぎるアニメ化」?
苦肉の策だったが名作となった「アスガルド編」

アニメオリジナルキャラのなかでは、世界観としては異彩を放っていましたが、やはり「鋼鉄(スチール)聖闘士」の3人は忘れられません。スカイクロス翔、ランドクロス大地、マリンクロス潮の3人は白銀聖闘士編を中心に活躍していました。
グラード財団の科学力で作られた鋼鉄聖衣を身にまとっているという設定のオモチャ先行のキャラですが、初期には星矢たちのパワーアップ聖衣という方向も考えられていました。後に製作されたアニメ版の続編『聖闘士星矢Ω』では、鋼鉄聖衣の性能が高すぎて装着者への負担と反動が大きく、やむなく戦線離脱したという設定が語られています。
アニメオリジナルキャラでもっとも原作とのつじつま合わせが難しかったのが水晶(クリスタル)聖闘士でした。なぜならば氷河の師匠という設定だからです。後にマンガで水瓶座のカミュという氷河の師匠が登場し、アニメとは大きな矛盾が生じてしまいました。
最終的にカミュを水晶聖闘士の師匠という形に変更、「師匠の師匠といえば師匠も同然」という理由で、カミュも水晶聖闘士も氷河の師匠ということになります。
この事態に関して、マンガを描いていた車田正美先生は「原作をアニメオリジナルエピソードに合わせることを敢えて行わない」と言っていました。
水晶聖闘士はアニメオリジナルキャラのなかでも人気が高く、2007年に雑誌の全員プレゼントという形で聖衣が雪の結晶に変化するというギミックを加えてオモチャが限定販売されています。
この他にも、カシオスの兄であるドクラテス、シャイナの妹分で幽霊(ゴースト)聖闘士のリーダーのガイスト、紫龍の兄弟弟子の王虎、シャカの弟子である孔雀座(パーヴォ)のシヴァと蓮座(ロータス)のアゴラなど、原作キャラの関係者であるアニメオリジナルキャラが登場し、原作に追いつきそうな状況を引き延ばしました。
しかし、単発の引き延ばしでは限界があります。そこで切りのいい番組改編期に合わせ、4月からアニメオリジナルの新シリーズを開始するという決定がなされました。それが「北欧アスガルド編」。これは原作の持つ世界観を壊さないようにするため、ギリシア神話以外でアニメ独自の方向性を模索した結果です。
しかし、マンガがその時期に合わせられるかは未知数。実際にマンガで聖域十二宮編が終わったのは1988年14号でした。アニメより先に終わったので勘違いする方もいると思いますが、マンガをアニメ化するには数か月はかかります。つまり3月いっぱいでアニメ版聖域十二宮編を完結させるには、途中からアニメオリジナル展開で終結させるしかありません。
アニメ版聖域十二宮編の最終展開がマンガと違ったのは、そういう理由があったからです。
このアニメスタッフの努力により、アスガルド編はマンガに劣らない高評価を得ました。後に黄金聖闘士12人をメインにした配信アニメ『聖闘士星矢 黄金魂 -soul of gold-』で、ふたたびアスガルドを舞台にしたことからもわかります。
さまざまな事情からアニメオリジナル展開が多かった『聖闘士星矢』ですが、原作マンガになかった部分がアニメ独自の魅力となっていたと思いませんか? 原作であるマンガとは違った部分も愛せるアニメだったと筆者は思います。
(加々美利治)