『うる星やつら』しのぶ、初の主役エピソードからも見える、少し不幸なキャラ人生
しのぶが不遇だった理由は?

アニメ『うる星やつら』は、第100話前後から巨匠・押井守監督のオリジナル色が強くなりますが、実はこれが最初の奇作だったかもしれません。ただ、特にしのぶファンからは「初の主役回にしてはちょっと可哀想」、といった違和感を唱える声がけっこうあったそうです。
その理由について、あくまで個人的な考察です。まず、(予告映像はあったにせよ)内容がサスペンスなのに、「しのぶのシンデレラストーリー」というタイトルからはイメージしにくく視聴者が戸惑ったことが挙げられます。また、演出面では、たとえば謎解きにつながるポイントを印象的にするとか、アングルや音楽などを全体的に「いつもと違うタッチ」で見せてもよかったかもしれません。
また、「しのぶの謎解き説明に矛盾点が多い」、「しのぶより真が目立ちすぎて腑に落ちない」という指摘も多かったそうです。物語のキレもしのぶのフィーチャーも弱い……となると、ちょっと中途半端だったかもしれません。制作の裏事情まではわかりませんが、もしかするとこの作品は今後のオリジナル作を見据えたお試しだったとも考えられます。そのお試しに、普段あまり目立たないしのぶを起用して作品の印象を中和した?……皆さんはどう思いますか。
しかし、この「しのぶのシンデレラストーリー」があったからこそ、サスペンス「そして誰もいなくなったっちゃ!?」(第98話)、あたるの母の主役回「みじめ!愛とさすらいの母」(第101話)、謎の奇作「恐怖!とろろが攻めてくる!」(第107話)など、インパクトの高いオリジナル作が生まれたのではないかと思います。
●原作者も願っていた、しのぶの幸福
どこか不幸な存在のしのぶですが、「キツネのかた想い恋すれどせつなく…」(第145話)からたびたび登場する、純情キツネとの切ない物語は、彼女の優しさが際立つハートフルなシリーズだったといえるでしょう。そして、男運がなかった彼女も、終盤の第331話「扉を開けて」から登場する「うさぎの因幡くん」と最終的に恋仲になり、幸せがやってきます。
そもそも1978年、「少年サンデー」に短期連載された読み切りの原作では、しのぶがヒロインでした。しかし、ちょい役だったラムが異常な指示を得たため、編集部の意向で正式な連載からはラムがヒロインでしのぶは恋敵に退くことになります。さらに個性的なキャラを次々登場させたため、彼女は影が薄くなってしまったわけです。
ただ、原作者の高橋留美子さんは、しのぶにはずっと申し訳ない気持ちがあったようで、Twitterでこんなことをつぶやいています。
「十回連載時、あたると結婚する未来を描いていたのですが、どう解決できるか、ずっと気になっていました。パラレルワールドとドアを思いつき、因幡も出すことができ、これでしのぶも幸せにできると思いました。うる星の連載が終了できたのは、しのぶの幸せが見えたから」。
そんな原作者にも愛される優しい美少女・しのぶ。リメイク版でも、「男なんて〜!」の怪力っぷりと、美しく優しいしのぶのエピソードを見せてほしいものです。
(石原久稔)