アニメーターの給料が安い元凶? アニメの「製作委員会」批判が的外れなワケ
「給料が安いアニメーター」とは主に動画職のこと
製作委員会システムになってむしろ制作現場の給与が上がっていることが分かりましたが、肝心のアニメーターはどうなっているのでしょうか?
かつて新聞やテレビにおいて「(20代)アニメーター平均年収110万円」と報じられ話題を集めたことがありました。しかし、これはアニメーターのなかでも、線をきれいに描き直す「第二原画」と、原画をトレースしつつ間の絵を描く「動画」を指してのことだったのです。同じアニメスタッフでも、1位の監督と最下位の動画では実に537万円もの差があります。
同様に同じ職制のなかでも格差が大きいことは「作画職における職制平均給与」を見れば一目瞭然、シリーズ全体の作画を統一するポジションの「総作画監督」と「動画」の差は453万円、2019年の推測値では599万円にもなります。このような給与差は能力とキャリアの違いから生じるものなのですが、アニメーターが社員だったテレビアニメ草創期にはここまでの開きはありませんでした。
ところが、1970年代からアニメスタジオの合理化がはじまり、かつアニメを目指すフリー志向スタッフが増えたこともあって格差が増大しはじめたのです。その結果、重要と思われる職制の給与は上がり続け、そうでないものは留め置かれることになったのです。後者の動画はその最たるもので、1枚描いて200円の時代が長らく続いています。
●動画の給与が低いのは、製作委員会のせいなのか?
1枚200円と言われる動画の単価は、どう考えても費やす時間と報酬とのバランスが取れていません。1日に描ける動画枚数は作品にも拠りますが10枚~20枚程度なので収入は多くて月に10万円程度。なかにはアッという間に動画を駆け抜けて原画にキャリアアップするアニメーターもいますが、通常2年程度の動画経験は必要となるので、その間の収入はよほど枚数でもこなさない限り抑えられたままです。
しかし、このことは製作委員会とは何の因果関係もありません。製作委員会はスタジオと話し合いの上で決まった制作費を支払っています。大手スタジオや、最近では人材育成意欲の高い若手スタジオでもアニメーターに対し福利厚生が伴う新卒社員採用を行っています。動画に世間相応の給与が支払えないのは中小・零細企業が多いアニメスタジオの経済事情によるという一面もありますが、それ以上にアニメーターという職業特性に寄るところが大きいからです。
●アニメーターはキャリアアップまで険しい道のり
アニメーターはしばしば「鉛筆を持った俳優」といった表現をされますが、実際要求されるものはそれ以上のものがあります。アニメーターは実写でいうと「演技が上手い(動かすのが上手い)」、「イケメン・美女俳優(キャラクター描写が上手い)」であることに加えて、レンズの特性まで知り尽くした高度な技術を持つカメラマンでもあるからです。
そのため、先輩アニメーターから、動画職の時点で能力的にキャリアアップが難しいと分かったら、早々に見切りをつけて転職したほうがいいという声も聞かれます(線が真っ直ぐ引けない、丸が描けないといった初歩的なレベルで挫折する新人アニメーターも多い)。
アニメーターに求められる能力についてほとんど知られていない状況にありますが、動画からキャラクターデザイナー(作画監督が務めるケースが多い)や総作画監督(から監督になる人間も多い)にたどり着くまでは、我々が考えている以上の険しい道が待ち構えているようです。
(増田弘道)