なぜ『スパイダーマン』は3人いる? 「大人の事情」をも逆手にとった「大成功」の裏側
「大人の事情」を逆手にとって見事な感動作に

さて、このように「大人の事情」が垣間見える同シリーズですが、そのことに「萎える」人もいるかもしれません。「純粋にクリエイターの作りたいものではないんじゃないか」とか、「金儲けのためだけにやっているのではないか」とか、そんな風に思われる方もいるでしょう。
しかし、異なるスパイダーマンが存在するというのは、マーベルシリーズの世界観の根幹をなすマルチバースの概念に基づいています。マルチバースは原作コミックにも存在する要素で、実際に3人どころかもっとたくさんの異なるスパイダーマンが描かれていますから、原作準拠でもあるのです。
さらに、『スパイダーマン』の大きな特徴は、ティーンエイジャーのヒーローであるということです。これは等身大のティーンの葛藤を描く物語でもあるので、演じる俳優は若い方がいい、だから俳優を交代させながら描いていくのは、その時代ごとのティーンのリアルな実像を捉えていけるという点でメリットもあります。若者に支持され続けるということは、新たなファンを獲得し続けているということであり、こうした戦略でファン層拡大に成功しているとも言えます。
そして、11月10日放送予定の『ノー・ウェイ・ホーム』では、過去にスパイダーマンを演じた3人の俳優が共演を果たしていますが、複雑な権利関係を背景に増えたスパイダーマンの世界を見事にひとつにまとめ上げ、感動的なストーリーを創出しています。そこには、ビジネス優先な匂いも感じさせず、ファンが見たかったものを見せた上で、作り手が強い意志で『スパイダーマン』の魅力を徹底してこだわって作っていると感じられるものになっています。
そもそも、世に出る全ての作品には大なり小なり「大人の事情」があり、それを通過しているものです。そういう事情が強く出すぎてしまっている作品は、確かに世の中に存在しますが、今回放送される『スパイダーマン』の2作は、それを見事に乗り越えたと言えるでしょう。
(杉本穂高)