鳥山明の「本気」に震えた『ドラゴンボール』の恐怖シーン 明るいノリから空気が一変?
2024年3月1日に逝去された鳥山明さんの名作『ドラゴンボール』は、序盤は前作の『Dr.スランプ』から続く、明るいノリの冒険活劇という印象でしたが、途中で空気が凍りつくようなシリアス展開へのターニングポイントがありました。読者目線で衝撃を受けた恐怖展開を振り返ります。
鳥山明が『ドラゴンボール』で表現した恐怖描写
2024年3月1日に漫画家の鳥山明さんがご逝去されたというニュースが流れ、世界中のファンが悲しみに包まれました。
言うまでもなく『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』といった大ヒット作を生んだ鳥山さんが、才能あふれる大漫画家だったのは誰もが知るところです。
「週刊少年ジャンプ」で『ドラゴンボール』の連載をリアルタイムで追いかけた筆者としては、とくに作中の空気が一変する恐怖描写や緊迫シーンを見て、鳥山明さんの凄さを実感させられました。
そこで今回は、個人的に恐怖や絶望感を味わった『ドラゴンボール』の緊迫したシーンについて振り返ります。
●あまりにもぶっ飛んだ暗殺者
『ドラゴンボール』の序盤のイメージは、どちらかというと『Dr.スランプ』のノリに近い、コメディタッチの冒険活劇という印象です。しかし、その空気が一変したように感じたのが、レッドリボン軍が雇った殺し屋、桃白白(タオパイパイ)が登場したときでした。
孫悟空たちとドラゴンボールを巡って争っていたレッドリボン軍のブルー将軍は、その桃白白に「こめかみを舌で貫かれる」という恐ろしい殺され方をします。
さらに桃白白は、聖地カリンを守るウパの父親を槍で串刺しにして殺したり、何の落ち度もない仕立て屋に料金を払わずに殺したりと、情け容赦なく罪なき人びとを惨殺していきました。
それまで作中に死の描写がなかったわけではありませんが、桃白白という、あまりにも非道で残忍なキャラの登場に、コミカル路線の終焉をそこはかとなく感じたものです。
●身近なキャラのショッキングな死
そして、もうひとつ大きなターニングポイントが、「第22回天下一武道会」の直後に訪れます。決勝戦で激闘を繰り広げた悟空と天津飯が健闘を称え合い、みんなで食事に行って大団円を迎えるかと思いました。
しかし、忘れ物を回収するために控え室に戻ったクリリンの悲鳴が聞こえ、みんなが駆けつけると、すでにクリリンが殺されているという緊迫した展開に突入します。
悟空の親友であり、主要キャラのひとりであるクリリンが、口から血を流して瞳孔が開いて死んでいる姿を見たときは、胸にくるものがありました。
そして、クリリンの死から始まったピッコロ大魔王やその一味との戦いが、シリアスで緊迫したものになることを、否が応でも察した場面でもあります。
●読者も絶望するほどの強敵
フリーザ、セル、ブウなど、『ドラゴンボール』にはさまざまな強敵が現れましたが、個人的にもっとも絶望的な空気を感じたのが、サイヤ人のナッパとベジータが地球に襲来したときです。そして読者目線で最初に恐怖を感じたのはナッパのほうでした。
まず地球に降り立ったばかりのナッパが、指を「クン」と曲げただけで、ひとつの街が消し飛んだシーンに衝撃を受けます。さらに、その後の地球の戦士たちとの直接対決では、ナッパの恐ろしさを嫌というほど痛感させられました。
天津飯は、ナッパのパンチを受けた左腕ごともぎとられ、餃子(チャオズ)による命懸けの自爆攻撃は不発。気功砲が効かなかった天津飯は力尽き、頼みの綱であるピッコロまで悟飯をかばって死ぬという流れは、ナッパの強さを強烈に印象付けました。
あまりにも生々しく凄惨な戦闘描写と、地球を代表する戦士たちが次々と無惨なかたちで死んでいくという展開には、絶望しかありません。「悟空- はやくきてくれーっ」というクリリンの叫びは、まるで読者の気持ちを代弁しているかのようでした。
「緊張と緩和によって笑いが生まれる」という話がありますが、『ドラゴンボール』の場合は、和やかな雰囲気から突然ギアが入ったかのように恐ろしい展開に突入する場面がとくに印象に残っています。個人的には、そのタイミングの絶妙さや、読者に感情移入させる巧みな恐怖描写にこそ、鳥山明さんの凄みが感じられました。
皆さんは、どんな恐怖シーンが印象に残っているでしょうか。
(大那イブキ)