『ボトムズ』主人公メカなのに「渋い色」はナゼ? スコープドッグのデザイン裏話
ミリタリーファン人気も高い『装甲騎兵ボトムズ』の主人公メカ「スコープドッグ」。軍事兵器を連想させるあの色を決めたのは、実はプラモデルのカラーだった?
「スコープドッグ」のカラーリング秘話
『装甲騎兵ボトムズ』といえば、数ある、俗に「ロボットもの」と呼ばれるTVアニメーションシリーズのなかでも、メカニカルファン、また軍用兵器等に詳しい人々に根強い人気があります。
『ボトムズ』に登場するのが「アーマードトルーパー」、略称「AT」というロボットです。
ATをロボットといってしまうと、識者からは「それは正しくない!」とお叱りを受けるかもしれません。しかし、そこは一般用語ということで平にご容赦いただくとして、この架空ロボットは、物語のなかでも兵器として特化した存在で、デザインや色なども、それを意識したものになっています。
これは当時のサンライズアニメのロボット全般にいえることなのですが、基本的に、物語と主役ロボットは別ルートで出来上がります。
なぜなら、作品に登場する主役級のロボットは、製品として実際に売り出される玩具やプラモデルに直結しているからです。
ATも例外ではありません。まずはデザイナーの大河原邦男さんの発案から、立体商品化を前提にしてデザインされ、それが活かせるように物語をつくっていったのです。
それを物語る裏話をひとつ紹介しましょう。
主人公「キリコ」の愛機であるAT「スコープドッグ」の基本色はグリーングレー。軍隊といわれたら最初にイメージする、自衛隊の方々が作業するときに着ている服のような色といってもいいでしょう。
『ボトムズ』のスポンサーであるタカラ(現:タカラトミー)は、プラモデルのユーザーにはミリタリーファンも多いため、まずそういう方たちに注目していただくことが重要だと考え、ATもミリタリーをイメージさせたいという意向でした。
実はデザイナーの大河原さんは自分で立体モデルを試作される方で、スコープドッグにもこの自作モデルがあります。そのモデルに塗られていたのが、ミリタリープラモで使う色の塗料でした。
そこでスタッフは、スコープドッグのデザイン画を写したセルにも、同じ塗料を塗ってみたそうです。
透明な樹脂製のセル板は、普通の絵の具ではなく、専用の特殊な塗料で塗られますが、プラモ用の塗料もプラスチックという樹脂製品用なのでセルに定着します。
その色は「オリーブドラブ」、日本では「国防色」などとも呼ばれ、茶色と緑色が混ざったような色です。実はこの色が、実際の兵器や陸軍などの戦闘服で使用されている色です。
スタッフはそのセル画の印象を活かしたいと考えますが、同じ色は当時のサンライズが使っていたセル用の絵の具のなかにはありませんでした。
もちろん、セル絵の具にもたくさんの色がありますし、新色を作ることも可能です。しかし絵の具の数を増やすということは当然費用がかかりますし、セル彩色をしてくれる相手すべてにも、その新しい絵の具を配らねばなりません。
これが既存使用の色であれば、その心配もなく、また急にどこかにお手伝いをいただくときにも、いちいち新色を届ける必要もありません。
結局は、5年ほど前の『機動戦士ガンダム』の時に「ザク」のために増やした、緑に灰色が混ざったような、絵の具番号「G7」「G8」を流用することになります。
確かにプラモ同様の実際の軍隊色とはちょっと違いますが、当時のTVのブラウン管方式ではあまり微妙な色の再現は出来ませんから、イメージが近ければそれでも問題はないという判断です。
まさに費用対効果、それが「商用」ということですし、逆にユーザーにもイメージを膨らませて、自由に楽しんでいただけるという可能性も残せるわけですから。
ちなみにセルに塗ったプラモ用の塗料は、セルからはすぐにパリパリと割れてはがれてしまうのでアニメに使えるものではありません。
ですから、その本当のオリーブドラブのスコープドッグのセル画は、その場に居合わせた数人の記憶にしかない「幻」のセルになったのです。
(風間洋(河原よしえ))
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。2017年から、認定NPO法人・特撮アーカイブ機構『ATAC』研究員として、アニメーションのアーカイブ活動にも参加中。