「νガンダム」の知られざるデザイン秘話 富野監督が「良い!」と歓喜したポイントとは
若手スタッフの案が決め手となったνガンダムのデザイン秘話。
画期的だったνガンダムのデザイン

1988年、「機動戦士ガンダム」シリーズの劇場用第4作目として製作されたのが『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』です。
第1作の『ガンダム』で人気を博した、敵・ジオン公国の将校「シャア」が『機動戦士Zガンダム』『機動戦士ガンダムZZ』を経て、再びネオ・ジオンの総帥として地球人類の粛正を強行しようとする、いわば「ガンダム第1期」のしめくくりと位置付けられるファン必見の作品です。
本作も含め、ガンダム作品の全ては「原作」という立ち位置から、富野監督が発案しているようにとられがちですが、いくら富野監督が超人的なクリエイターだとしても、商業アニメーションは決してひとりで作れるものではありません。作画等の実作業はもちろんですが、作品のアイデアや設定、デザインなどには多くのスタッフが参加し、また発案も含まれています。
この『逆シャア』に登場する主役モビルスーツ「νガンダム」にも、実は多くの、特に当時のサンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)にあった「企画開発室」の内外スタッフが関わっているのです。
どんな作品でも、常に新しいものを見せたいと考える富野監督。それはモビルスーツに関しても同様です。そのため、時には複数のデザイナーにデザインを出してもらう、一種のコンペのような形になることもありました。
今回の監督のオーダーは「ガンダムにマントを着けたい」。しかし、νガンダムに関しては、このコンペでもめがねにかなうものがなかったようでした。
そこで監督は、当時の制作スタジオとは別の建物にあった企画開発室に同様のオーダーを送ってきました。
当時の企画開発室は、サンライズの現場の制作経験者をはじめ、立体業界経験者、SF、メカ等に詳しい若者やデザイナー等々が常に出入りしており、さまざまなアイデアを出し合ってオリジナルの企画を立ち上げる作業に携わっていて、私もそこのメンバーでした。
そこで我々は、1/60のガンダムプラモに段ボール紙を貼り合わせ、片方の肩に装着するマント状のデザインを作り上げ、さらにこれが分離変形して「フィン・ファンネル(ビット)」と呼ばれる小型高速攻撃パーツになるというアイデアを盛り込み、監督のもとに届けました。
すると左右対称である人型モビルスーツのこれまでのシルエットとは大きく違うこのデザインと、ガンダム自体にビット機能を持たせたアイデアが富野監督の思いに合致したのでしょう。届けてほんの1、2時間で「これいい!」というOKが返ってきたのです。
このデザインを、当時企画開発室の協力スタッフだった、後に『魔神英雄伝ワタル』や『新世紀GPX サイバーフォーミュラー』などのデザイナーとなる中沢数宣さんや、小説『ARIEL』、アニメ『機甲戦記ドラグナー』等でも活躍したイラストレーター、故・鈴木雅久さんなどがリライト。これを、最後にサンライズ作品のメカデザイナーとしても有名な出渕裕さんがまとめ、決定したのです。
ちなみにこの「νガンダム」の「ν」である「ニュー」は当然ながら「NEW」の言い換えですし「Zガンダム」の「Z」は「2番目のガンダム作品」という意味の「ガンダム2」の「2」の文字をもじったものです。知ってますよね?
(風間洋(河原よしえ))
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
2017年から、認定NPO法人・アニメ、特撮アーカイブ機構『ATAC』研究員として、アニメーションのアーカイブ活動にも参加中。



