あなたもガンダム? 「リーベン・ヴォルフ」と「シルヴァ・バレト」のややこしい血脈
「リーベン・ヴォルフ」というモビルスーツの名前には、もしかするとあまり馴染みのない人も多いかもしれません。しかしその系譜をたどると、「ガンダム」ファンなら誰もが知る機体へとたどり着くのでした。
「サイコ・ガンダム」からリーベン・ヴォルフまでの道のり

2025年3月25日、ガンプラの新たなラインナップに「HG 1/144 リーベン・ヴォルフ(A.O.Z RE-BOOT版)」が登場し、大きな話題を呼びました。『機動戦士Zガンダム』公式外伝『A.O.Z RE-BOOT(アドバンスオブゼータリブート) ガンダム・インレ-くろうさぎのみた夢-』(作:藤岡建機/原作:矢立肇、富野由悠季/KADOKAWA)に登場した量産型MS(モビルスーツ)が、完全新規造形で初めて立体化されたものです。
予約開始後すぐに品切れになるほどの人気を集めたのは、ガンプラの最新技術を詰め込んでいることと、「サイコ・ガンダムMk-II」と「ドーベン・ウルフ」という、ふたつの人気MSから遺伝子を受け継いでいるためでしょう。
火星のジオン残党勢力「ジオン・マーズ」が開発したリーベン・ヴォルフは、『機動戦士ガンダムZZ』に登場したドーベン・ウルフをベースにした発展量産型です。「リーベン」=ドイツ語で「生きている」、「ヴォルフ」=同「狼」であり、「ドーベン・ウルフはまだ生きている」という意味が込められています。
再設計にあたり整備性を高め、武装システムを整理して多様な任務に対応可能となり、必要に応じてニュータイプ向けにも改修できます。より実用的で運用しやすくなり、量産機としては優れた仕様となりました。
その元になったドーベン・ウルフは、原点のひとつが「サイコ・ガンダムMk-II」にあります。ビーム兵器、実弾兵器を大量に内蔵し、ニュータイプや強化人間にしか扱えなかったサイコミュ兵器を改良した準サイコミュ兵器「インコム」を備えた設計は、まさに「サイコ・ガンダムの小型量産化」を形にしたものです。一般兵でもオールレンジ(全方位)攻撃ができ、コンペで競った「ザクIII」を退けて次期主力量産機に選ばれていました。
そしてサイコ・ガンダムMk-IIは、地球連邦軍の強硬派「ティターンズ」が開発した強化人間用モビルスーツ「サイコ・ガンダム」の改良、発展型です。『機動戦士Zガンダム』で「ロザミア・バダム」が搭乗していた機体が「ネオ・ジオン(ハマーン率いる旧アクシズ。以下同)」に回収され、続編『機動戦士ガンダムZZ』では「プルツー」の搭乗機体となっていました。
それとは別に、ドーベン・ウルフの原型のひとつとしては「ガンダムMk-V」が挙げられます。ティターンズの依頼によりサイコ・ガンダムを小型量産化する目的で開発された機体で、うち1機がアクシズの手に渡りました。それを手引きしたという「ローレン・ナカモト」は外伝マンガ『機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー -カイ・シデンのレポートより-』(作:ことぶきつかさ/原作:矢立肇、富野由悠季/KADOKAWA)に登場し、「サイコガンダムの小型化も最終段階まで来ているのです」と語っています。
つまり、ネオ・ジオンはサイコ・ガンダムMk-IIとガンダムMk-Vの両方のデータを手に入れ、それらを統合することでドーベン・ウルフを完成させたわけです。ガンダムMk-Vではサイコ・ガンダム系列にあった内蔵メガ粒子砲が省略されていましたが、ドーベン・ウルフでは復活しており、武装的にもニコイチとなっています。
ここで話は終わらず、ドーベン・ウルフからは「シルヴァ・バレト」という改修機が派生します。ネオ・ジオンとの戦争後に接収したドーベン・ウルフを、地球連邦軍の依頼でアナハイム・エレクトロニクスが改修した機体です。『機動戦士ガンダムUC』が初登場ですが、『機動戦士ガンダムNT』でのさらなる派生機「シルヴァ・バレト・サプレッサー」の方が印象的でしょう。
胸部にあったメガ粒子砲をオミットし、一部外装を変更したことで、より高い機動性と安定した稼働を実現したものです。そしてシルヴァ・バレトは「銀の弾丸」という意味で、ドーベン・ウルフへの対抗意識がまるだしです。
そのようなわけでリーベン・ヴォルフは、サイコ・ガンダムは孫とお祖父さん、シルヴァ・バレトとは息子と魔改造されたお父さん的な関係にあり、ややこしい血筋になっているのでした。
(多根清史)