『サザエさん』OP映像で日本の観光地が描かれる「深いワケ」 番組を支える一面も?
世間を騒がせた放送局の問題で、一時的にスポンサーが消えたことでも話題になった『サザエさん』は、思わぬ企画から制作費が出ていました。多少とはいえ助かっていたようです。
2000年から「応募」が始まっていた?

アニメ『サザエさん』のオープニング(OP)は、サザエさんが日本全国の観光地を巡る映像がおなじみとなっています。
ところで、あの観光地はどのように選ばれているのかご存じでしょうか? 47都道府県をだいたい順繰りに紹介していると思っている人もいるかもしれませんが、全く違います。
番組では、全国の自治体に対して募集を行い、協力金を仰いでOP映像を制作しています。これは、2000年からスタートした取り組みで、半年ごとに都道府県やエリアが変わります。毎回、どれくらいの自治体から応募があるのかは明らかにされていませんが、もしかしたら水面下でバチバチの争奪戦が行われている? ……かもしれません。
現在の2025年前期は「秋田県」です。「秋田市のポートタワー・セリオン」、「大潟村の桜・菜の花ロード」、「大館市観光交流施設『秋田犬の里』の芝生広場に展示されている鉄道車両『青ガエル』」など12か所をサザエさんが巡っています。
地元の人じゃなければあまり知らないようなスポットもあるので、興味を持って足を運ぶ人も多いとか。7月から9月までは夏バージョンに変わり、さらに別のスポットが紹介される予定です。
秋田県は11年前の2014年にも映像になっていますが、このとき「サザエさんを見て来た」という観光客が多かったそうです。そんな事例もあり、地元放送局「秋田テレビ」の提案を受けて自治体も動いたとのこと。県観光連盟は880万円を計上して番組にOP制作を委託しました。
広告費としては「格安」?
「制作費(広告費)として880万円って高くない!?」と驚く人もいるかもしれません。でもこれがまったく逆です。
『サザエさん』のOPは約60秒です。もし、日曜日の同時間帯に60秒のCMを半年間流す場合、広告料は少なくとも9000万円以上が必要です。近年の、『サザエさん』の平均視聴率は約9%前後なので、1回の放送を関東地域では約359万人が視聴していることになります。そう考えるとかなり安価な広告料といえます。
OPの観光スポット紹介が、実際に観光客の増加にどれだけ効果があったのか、データ収集は難しそうですが、「2015年・宮崎県」は、2億円の経済効果があったという報道がありました。また「2010年・東京都」で紹介した「国立新美術館」などのスポットは軒並み動員増だったとのことで、サザエさんのPR効果は「大」だと考えられています。
ロケハンしようと現地まで出かけたら
訪問地決定後、今度はサザエさんがどこでなにを紹介するのか、さらに詰めなければなりません。制作サイドは、スタッフが実際に現地を訪れてロケハンをします。観光スポットやアトラクション、グルメなど、有名かそうでないかにかかわらずピックアップして判断するそうです。
アニメ『サザエさん』は56年前の1969年から放送がスタートしました。観光地巡りは、もともとエンディング映像で行っていましたが、視聴者に好評だったため1974年からOPに変更しました。最初の訪問地は石川県だったそうです。
訪問地は、ひとつの都道府県に限らず「○○地方」などエリアで紹介するケースもあります。2022年4月から9月は、「海と日本プロジェクト」とのコラボで、海にまつわる全国のスポットが紹介されていますが、その訪問地を含め、2000年以降でまだサザエさんが訪れていないのは、
群馬県、栃木県、千葉県、埼玉県、熊本県、徳島県、高知県、鳥取県。京都府、大阪府、奈良県、和歌山県、香川県……と、まだ13府県が残っています。2025年秋からはどこが選ばれるのでしょうか?
(石原久稔)