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明日『あんぱん』嵩は「漫画家仲間の世界旅行」に誘われず やなせたかしはその悔しさで「グランプリ受賞作」を描き上げていた

『あんぱん』112話では、嵩が所属している漫画家の集団の世界旅行に誘われなかったことで、ショックを受けるようです。

当時、漫画家としては「序二段」だった?

柳井嵩役の北村匠海さん(2020年11月、時事通信フォト)
柳井嵩役の北村匠海さん(2020年11月、時事通信フォト)

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』は、『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんと妻の暢(のぶ)さんの人生をモデルにした物語です。第23週「ぼくらは無力だけれど」の112話では、「柳井嵩(演:北村匠海)」が、所属している「独創漫画派」のメンバーが自分抜きで世界旅行に出かけていることを知り、ショックを受けることが予告されています。

 仲間の漫画家たちに旅行に誘ってもらえなかったというのは、やなせさんの実体験です。そして、彼はその悔しさをバネに、あるマンガを描き上げました。

 やなせさんは三越で会社員をしていた時代からマンガを多数投書しており、その時期に小島功さん(『仙人部落』『ヒゲとボイン』など)を中心にした独立漫画派という集団に属し、のちにフリーになってからは、成人向けのマンガ、いわゆる「大人漫画」を描く漫画家たちの団体、漫画集団(戦前は新漫画派集団という名前)にも入りました。

 漫画集団には、毎日新聞で1954年から47年間連載された『まっぴら君』の作者である加藤芳郎さんや、塩田英二郎さん(『夢みるユメ子さん』『コックリくん』など)、岡部冬彦さん(『アッちゃん』『ベビー・ギャング』)ら、さまざまな漫画家がおり、1960年代になってからは、手塚治虫さん、赤塚不二夫さん、石ノ森章太郎さん、藤子不二雄(藤本弘さん、安孫子素雄さん)らも漫画集団に加入します。

 やなせさんは漫画集団の月1の総会や年末に箱根で行われる忘年会が楽しみだったそうで、自伝『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)では、特に忘年会が「大人の学芸会みたいで楽しかったですよ」と振り返っていました。忘年会ではさまざまな漫画家が独自の芸を披露していたそうで、戦中から風刺マンガを描いていたベテランの近藤日出造さんがどじょうすくいをしたり、手塚さんがアコーディオンを演奏したりしていたほか、画家の谷内六郎さんが少女に扮して歌い貧血を起こしたり、赤塚さんが下ネタを熱演しすぎて警察沙汰になったりと、衝撃的な事件があったことも語られています。

 しかし、やなせさんはその漫画集団の世界旅行には誘われませんでした。やなせさんの別の自伝『アンパンマンの遺書』(岩波書店)では、彼は1960年代後半当時の自分を「漫画家の中では相かわらずランクは眼にも見えない下の方で、相撲の番付でいえば序二段ぐらいのところだ」と語っています。そして、「漫画集団世界旅行というのにもさそいの声さえかからなかった。自分が完全に無視されている、存在していないとおなじ、ということが身にしみた」と、当時のくやしさ、寂しさを綴っていました。

 ただ、漫画集団が旅行に行っている最中の1967年、やなせさんは週刊朝日の「プロアマ問わず連載漫画募集」という広告を見かけます。グランプリを獲れば、半年の連載と100万円の懸賞金がもらえるというのです。

 やなせさんは落ちたら恥をかくという恐れもあったものの、一念発起し、変名も使わずにプロの漫画家「やなせ・たかし」(当時は「・」が入っていた)の名前で作品を描くことを決意します。そして、「全世界どこへいっても理解できる」という理由でパントマイムの発想を取り入れた、セリフなしの4コママンガを描くことにしました。また、読者の想像に任せる意図で帽子をかぶって顔が分からない主人公をデザインします。

 そうして、やなせさんの代表作『ボオ氏』(帽子と、名前がない某氏という意味が込めらている)が誕生しました。やなせさんは半年分の『ボオ氏』24作品を描き上げ、締め切りの日に朝日新聞社に持っていきます。そして、その後朝日新聞からグランプリを受賞したという連絡が入りました。

 やなせさんの週刊朝日漫画賞グランプリ受賞は全国に報道され、周りからも祝福されましたが、やなせさんはその後の出来事について複雑な気持ちも語っています。何とこの週刊朝日漫画賞は、この1回限りで終わってしまいました。さらに本格的な授賞式もなく、やなせさんが当時出していた詩集『愛する歌』の詩を歌うコンサートをしていた会場に週刊朝日の編集長がやってきて、その場で賞状や賞金を渡したそうです。

 週刊朝日での『ボオ氏』連載は半年で終わったものの、やなせさんは媒体を変えてその後も同作を描き続けました。この作品で漫画家としてブレイク、とはならなかったものの、やなせさんにとっては「冬枯れの小道にかすかに一条の光がさしたような感じはあった」(『アンパンマンの遺書』より)と、自信を得る出来事になったようです。

 ちなみに、『アンパンマンの遺書』によると、やなせさんはグランプリ受賞の電話を受けた後、妻の暢さんに「嘘かもしれないからよろこんじゃいけない」と言ったそうで、そのせいで暢さんはやなせさんが100万円を持って帰ってきても「あんたがよろこぶなというもんだから、よろこばないようにがまんしているうちにあんまりうれしくなくなった。でもおめでとう」と語ったといいます。

『あんぱん』でも嵩がこれから『ボオ氏』を描いてグランプリを獲るエピソードが描かれると思いますが、その際にのぶがどんな反応を見せるのかも注目です。

(マグミクス編集部)

【画像】え…っ? 「めっちゃ美人」「こりゃ、やなせさんもホレるわ」 こちらが妻・暢(のぶ)さんの若き日の姿です

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