『あんぱん』116話・話題になった嵩のセリフは超重要? やなせたかしが繰り返し語ってきた「ほんとうの正義」とは
『あんぱん』116話では、嵩のあるセリフが話題になりました。
何度も語られた「正義」についての言葉

『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんと妻の暢さんの人生をモデルにした2025年前期の連続TV小説『あんぱん』116話では、「柳井嵩(演:北村匠海)」のあるセリフが話題になりました。これはやなせさんが繰り返し語っていた、『アンパンマン』に込めたメッセージにも関係しているものです。
116話では、まだ普通のおじさんの姿をしている「アンパンマン」の物語に関して、嵩が妻「のぶ(演:今田美桜)」に話す場面がありました。こちらは、1969年、やなせさんが月刊誌「PHP」で1年間短編の物語を連載したうちの一編として登場した、最初期のアンパンマンの物語と共通しています。
この話の最後では、空を飛びながらお腹を空かせた人びとにパンを配っていたアンパンマンが、国境を越えたところで、敵と間違われて撃ち落とされてしまうという結末を迎えます。116話の終盤、のぶが「でも、えいことしゆうのに何で(アンパンマンは)撃ち落とされてしまうが?」と聞くと、嵩は「正義を行うということは、自分も傷付くことを覚悟しなきゃいけない。僕はそう思うんだ」と答えました。
アンパンマンがいまと同じ「顔が食材」のヒーローになった、1973年の絵本『あんぱんまん』(フレーベル館)のあとがきでは、やなせさんは「ほんとうの正義というものは、けっしてかっこうのいいものではないし、そして、そのためにかならず自分も深く傷つくものです。そしてそういう捨身、献身の心なくしては正義は行えません」と語っています。最初の絵本では、アンパンマンは自分の顔を分け与えて、最終的に頭が完全になくなるほどの自己犠牲を見せていました。
また、自伝『アンパンマンの遺書』(岩波書店)では、やなせさんはアンパンマンが幼児中心に広く読まれるようになってから、絵本シリーズに「正義とは何か。傷つくことなしに正義は行えない」と明確なメッセージを入れるようにしたことを振り返っています。
さらに、やなせさんが亡くなる前年の2012年に出演した、NHKの番組「100年インタビュー」の内容を書籍化した『何のために生まれてきたの?』(PHP研究所)では、「正義を行う覚悟」という章で、「自分がまったく傷つかないままで、正義を行うことは難しい」と書かれていました。
この章ではやなせさんは、川で子供が溺れているのを見て飛び込んで亡くなった教員や、電車に轢かれそうになった人を助けて死亡した警官など、いくつか現実の事例をあげ、「強い人じゃないのに、その時、そうせずにはいられなかったんですよ。それが正義なんだと思うんです」「アンパンマンは自分の顔をあげる。自分のエネルギーは落ちるけど、そうせずにはいられないから。正義には一種のかなしみがあって、傷つくこともあるんです」と強調しています。
やなせさんは同様のことをそのほかの書籍や、各種インタビューでも何度も繰り返し語ってきました。今回の嵩の発言は、『あんぱん』のなかでも一番重要なセリフのひとつかもしれません。
正義のために撃ち落されたおじさんのアンパンマンを経て、今度は自分の顔を食べさせるという最大級の「捨身、献身の心」を見せる、現在のアンパンマンが生まれます。現在発表されている『あんぱん』117話のあらすじを見ると、のぶが柳井家にやってきた編集者に『アンパンマン』の物語を勧めるとのことでした。24週のタイトル通り、「あんぱんまん誕生」も近そうです。
(マグミクス編集部)

