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『あんぱん』子供に不評どころではなかった初期アンパンマン 届いた批判とやなせたかしが返した秀逸な言葉とは

『あんぱん』24週では、「あんぱんまん誕生」の物語が描かれます。アンパンマンは、誕生当初、かなり不評だったそうです。

あまりにも不評だった?

柳井嵩役の北村匠海さん(2020年11月、時事通信フォト)
柳井嵩役の北村匠海さん(2020年11月、時事通信フォト)

『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんと妻の暢さんの人生をモデルにした2025年前期の連続TV小説『あんぱん』第24週は、「あんぱんまん誕生」というタイトルです。117話では、「柳井嵩(演:北村匠海)」が描いた、まだ普通のおじさんの姿をしている「アンパンマン」の物語(1969年にやなせさんが月刊誌「PHP」で1年間短編を連載したうちの一編)を完成させ、妻「のぶ(演:今田美桜)」の働き掛けもあって無事出版されました。

 発表されている118話のあらすじを見ると、のぶが嵩の恩人「八木信之介(演:妻夫木聡)」の会社で、集まってもらった子供たちに『アンパンマン』の物語を読み聞かせるも、まったくウケないとのことです。

 やなせさんは、さまざまな書籍やインタビューで、初期に発表したアンパンマンの物語はとにかく人気が出なかったことを語っています。特に不評だったのは、1969年版よりも、1973年にフレーベル館から出した絵本『あんぱんまん』でした。こちらは普通のおじさんがアンパンを配るという物語から、自分のアンパンの顔を人に分け与えるヒーローが生まれた重要な作品ですが、その新要素こそが不評となっています。

 やなせさんは2012年に出演した、NHKの番組「100年インタビュー」の内容を書籍化した『何のために生まれてきたの?』(PHP研究所)で、絵本『あんぱんまん』が編集者から「こんな馬鹿馬鹿しいものを描いても、読者には喜ばれません。もうちょっとショッキングなもの、そういうものでないと。こんな、自分の顔を食べさせてやっていくような生ぬるい話では……」と言われたことを語っていました。

「生ぬるい」という意見の一方で、ある幼稚園の先生からは「顔を食べさせるなんて残酷です」という抗議の手紙も届いたといいます。最初の絵本では、アンパンマンが頭部が完全になくなるまで自分の顔を分け与える場面もあったため、よりそういう風に感じたのかもしれません。さらに、とある絵本評論家からは、「こんなくだらない絵本は、図書館に置くべきではない。現代の子どもは、この絵本を読んでも少しも面白がらないはずだ」とまで言われたそうです(やなせさんの自伝『人生なんて夢だけど』より)。

 やなせさんはそういった不評があってもめげずに、自分が責任編集を務める雑誌『詩とメルヘン』(サンリオ)で、マンガ『熱血メルヘン怪傑アンパンマン』を連載します。そして、絵本発表から数年たつと、幼児たちの間で『あんぱんまん』が大人気となり、やなせさんは絵本シリーズの続編を書いたり、盟友のいずみたくさんとミュージカルを作ったりと、『アンパンマン』を発展させていきました。

 ちなみに、前述の『何のために生まれてきたの?』では、やなせさんが大人になったかつての『あんぱんまん』読者に、どこを面白かったのかと聞いてみると、「アンパンマンが自分の顔をあげるところです。すごいショックを受けて、それがずっと心に残っていて、非常にひきつけられました」といった返答が多かったことを語っています。

 さらに、やなせさんは「顔を削るのはやめてください。残酷です」という抗議に対し、「あんパンが食べられなかったら、それはまずいパンです。あんパンが食べられることは当然のことです。少しも残酷なことではありません」と、返事の手紙を書いたことも明かしていました。

 これらのエピソードからは、やなせさんの、とにかくアンパンマンを世に広めたい、子供たちにメッセージを伝えたいという思いを感じます。『あんぱん』でも、最初はアンパンマンの物語は不評続きになると思われますが、嵩とのぶがそういった逆境にどう立ち向かうのかも注目です。

(マグミクス編集部)

【画像】え…っ? 「今田美桜には似てないけどめっちゃ美人」「こりゃ、やなせさんもホレるわ」 こちらが妻・暢(のぶ)さんの若き日の姿です

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