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「のぶと嵩は幼なじみ」はフィクション 『あんぱん』では描かれないやなせたかしの「切ない」「数奇」な初恋エピソードとは

すでに有名な話ですが、『あんぱん』と違って、やなせたかしさんと暢さんは幼なじみではありません。やなせさんの書籍では別の女性との初恋の話がありました。

初恋のせいで勉学に影響が?

柳井嵩役の北村匠海さん(2020年11月、時事通信フォト)
柳井嵩役の北村匠海さん(2020年11月、時事通信フォト)

『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんとその妻の暢(のぶ)さんの人生をモデルにした物語のNHK連続テレビ小説『あんぱん』は、史実に基づいたエピソードも多い反面、大胆な改変が加えられている点も特徴です。そのなかでも最大の変更点は、主人公「のぶ(演:今田美桜)」と、「柳井嵩(演:北村匠海)」が「幼なじみ」という設定になっていることでしょう。

 すでにさまざまな媒体で語られている通り、やなせさんが暢さんと出会ったのは、戦後に中国から引き揚げてきた1946年の夏、入社した高知新聞の月刊誌「月刊高知」の編集部でのことでした。暢さんはやなせさんの目の前のデスクに座っており、やなせさんは可憐な見た目ながら芯が強い彼女のことを、すぐに好きになったそうです。

 このとき、やなせさんはすでに27歳でした。貴重な20代前半の時代を戦地で過ごしたとはいえ、それまでに別の女性との恋もあったはずです。やなせさんの書籍を見てみると、彼の「初恋」について語られていました。

 やなせさんは高知県後免野田組合尋常小学校(現:南国市立後免野田小学校)を首席で卒業し、県立城東中学(現:高知追手前高校)に入学します。城東中学には汽車通学しており、やなせさんはそこで見かける女学生に「一目惚れ」したそうです。

 思春期の時期に大好きな女性ができてしまった弊害について、やなせさんは自伝『人生なんて夢だけど』で、「朝から晩までその女学生のことばかり考えていて、全く勉強が身につかない」「十三、十四、十五歳というのは、実に危険な年齢ですね。精神的に未熟なのに、性に目覚めてしまう」などと語っていました。この恋のせいで学校の成績も下がったそうですが、それでも200人中50番~70番だったとのことで、もともとの優秀さがうかがえます。

 そして、やなせさんは夏休みに高知県香美市香北町朴ノ木の祖母の家にいたとき、変名でその女学生に恋文を送ったそうです。その結果はどうだったかというと、

「すぐに返事がきました。なんとそれは彼女の父親からで、『今度こんなことをしたら学校へ通告する』と書いてあったので顔面蒼白、ぼくは手紙を破って捨てました。誰にも言いませんでしたが、ぼくの初恋はそれで簡単に終わりです」(『人生なんて夢だけど』より)

 と、苦い思い出になったようでした。

 しかし、やなせさんは後年、この初恋の相手と意外な形で再会します。それは、1968年、やなせさんがある展覧会に行ったときのことだったそうです。当時、やなせさんと同じ40代後半だった彼女は、美しい人妻になっていたとのことで、その場で「父が昔、失礼な手紙を差し上げてごめんなさい」と言ってきたといいます。

 緊張したやなせさんはそのとき何と答えたかも覚えていないそうですが、貴重な体験にはなったようです。

『あんぱん』では嵩はずっとのぶ一筋なので、やなせさんの自伝でしか味わえない貴重なエピソードといえます。

(マグミクス編集部)

【画像】え…っ? 「美人すぎるやろ」「この人が目の前のデスクに?」  こちらがやなせたかしさんが27歳で高知新聞で会って「一目惚れ」した暢さんの姿です

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