『あんぱん』最終回に出てこなかったことで話題のキャラは何者？　SPドラマで描かれる「史実とは違う（？）決意」に注目

やなせさんの秘書の「決意」とは

『アンパンマン』の作者、やなせたかしさんとその妻の暢（のぶ）さんをモデルにしたNHK連続テレビ小説『あんぱん』は、130話で完結しました。129話で病気が見付かり、手術を受け退院した主人公「柳井のぶ（演：今田美桜）」は、自分の死期が近いと感じ、夫の「柳井嵩（演：北村匠海）」に「今年の桜は一緒に見れんかもしれんね」と語っていましたが、130話の最後ではそこから5年が経過しても元気な姿を見せ、物語は終わっています。

　最終回は、のぶと嵩以外のメインキャラは登場しませんでした。重要人物に見えたのに、最後に出てこなかったことで視聴者から困惑の声も出ていたのが、129話でのぶの誘いによって嵩のスタジオで働くことになった「中尾星子（演：古川琴音）」です。

『あんぱん』は本編が完結したものの、9月29日（月）から10月2日（木）まで、NHK総合夜11時からそれぞれ別の登場人物が主人公のスピンオフドラマと、出演者の座談会を盛り込んだ25分の特別番組が放送されます。10月2日放送のドラマ「受け継ぐもの」は星子が主人公で、公式のリリースでは「嵩とのぶのもとで働く星子の決意」が描かれるそうです。129話で星子がどのような思いで、嵩のもとで働くことを決めたのか、詳細が語られるのでしょう。

　星子のモデルは、1992年からやなせさんを秘書として支え、やなせさんの死後は作品の権利を管理する株式会社やなせスタジオの代表取締役を務めている、越尾正子さんと思われます。越尾さんは若い頃から茶道を習っており、暢さんとは別の茶道教室で出会ったそうです。

　その後、暢さんが独立して自分の教室を開くと、越尾さんはそこに通うようになりました。そして、1992年、越尾さんがそれまで勤めていた協同組合をやめ、教室暢さんにそのことを話すと、暢さんは「あら、うちで働けば」と誘ってきたそうです。暢さんは1988年にがんが見付かっており、死後に自分の代わりにやなせさんの世話を任せられる人を探していました。

　越尾さんは「ものを作り出す人は、恐ろしく繊細な神経を持っているに違いない」「私は正反対の粗雑な性格だから、絶対無理だ」などと考え、最初は断ろうと考えます。しかし、悩んだ末に長年の趣味だった茶道教室に通うのが気まずくならないように、やなせさんのもとで働くことを選んだそうです。当初の越尾さんの心配とは裏腹に、やなせさんは常に彼女に優しく接してくれたといいます。

　その後、暢さんは越尾さんが入社してから1年半ほど経った、1993年11月22日に亡くなりました。暢さんは体調を崩し始めた頃から、よく越尾さんに「あなたはうちの人に似ているから、きっと気が合うと思う。絶対に辞めないでね」と言っていたそうです。越尾さんは暢さんの想いを受け継ぎ、やなせさんが亡くなる2013年まで、仕事の手伝いや身の回りの世話をして彼を支え続けました。

　越尾さんがやなせさんの秘書として働くことを決めた当初の理由は、「趣味の茶道を続けたいから」でしたが、『あんぱん』の星子に関してはまた違う理由が描かれると思われます。彼女は、アンパンマンがおじさんの姿をしていたときから、その魅力に惚れこんでいました。129話でのぶが星子をスカウトしたのも、「みんなが見向きもしないときからアンパンマンを好きになってくれた」からです。

　古川琴音さんが星子役を務めることが解禁された際の、古川さんやチーフプロデューサーの倉崎憲さんの公式コメントでは、星子は「やないさんとのぶさんを最後まで支え、2人の想いを引き継ぎアンパンマンを次の世代へ繋げている」「やない夫婦の意志を受け継いでいく」存在であることが述べられていました。

『あんぱん』最終回ののぶは元気そうでしたが、やはり彼女は嵩より先に亡くなり、その後は星子が嵩を支える存在になると思われます。10月2日のスピンオフドラマでは、彼女のどのような「決意」が描かれるのか、要注目です。

参考書籍：『やなせたかし先生のしっぽ: やなせ夫妻のとっておき話』（著：越尾正子／小学館）、『やなせたかし はじまりの物語: 最愛の妻 暢さんとの歩み』（高知新聞社）