『ばけばけ』小泉八雲と前妻・マーサのモデルは「見える人」だった? 書籍、新聞に載ったヤバすぎる化け物・幽霊とは
連続テレビ小説『ばけばけ』のモデル、ラフカディオ・ハーンは怪談が好きなだけでなく、実際に幽霊をよく見ることがあったそうです。
ハーンがリアルで見た「のっぺらぼう」

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、『知られぬ日本の面影』『怪談』などの名作文学を残した小泉八雲(パトリック・ラフカディオ・ハーン)と、彼を支えた妻の小泉セツがモデルの物語です。
第12週では、主人公の「松野トキ(演:高石あかり)」が未来の夫「レフカダ・ヘブン(演:トミー・バストウ)」に怪談を語って聞かせる場面が描かれています。ヘブンはとても怪談に興味を持っていましたが、実際のハーンも怪異に縁が深い人物でした。
アイルランドでハーンを引き取った大叔母のサラ・ブレナンは、5歳のハーンをひとりで寝かせ、部屋の灯りを消して外から鍵をかけていました。暗闇を恐れたハーンは、幽霊などの恐ろしい幻覚に襲われることがあったそうです。これらの経験を、彼は自伝的エッセイ『夢魔の感触』や『私の守護天使』などに記しています。
幼い頃、悪夢を見ることが多かったハーンは、目が覚めると夢の中にいた化物が部屋の陰にひそんでいるのが見えました。時には、夕暮れどきに現れてハーンを追いかけ回し、長い手を伸ばして追いかけてくることもあったようです。ハーンは大叔母に化物の恐怖を訴えましたが、そんな化物は存在しないと叱られるばかりでした。
また、眠る前には、お化けや鬼がのぞきこむのを防ぐため、掛け布団のなかに自分の頭を隠すようにしていました。時折、お化けや鬼は寝具を引っ張り、ハーンは大声をあげて叫んだそうです。
ハーンが7歳の頃に出会った、屋敷に滞在するジェーンという若い女性は、彼に優しく接してくれました。あるとき、ジェーンの姿が見えたので名前を呼ぶと、彼女はハーンに気付いて振り返ります。
しかし、振り返ったジェーンの顔は、目も鼻も口もなく、のっぺりとしたものだったそうです。ジェーンはそのまま消えてしまいました。後にハーンが書く『怪談』の「むじな」の原型のような話です。
これらを幼い子供が見た幻覚や想像と一笑に付すのは簡単ですが、ハーンは子供の頃の感性を大人になっても持ち続けました。
幽霊を実際に見たのはハーンだけではありません。成人してアメリカに渡ってから結婚したアリシア・フォリー(愛称:マティ)という黒人女性も、よく幽霊を見ていたといいます。彼女は『ばけばけ』に登場した「マーサ(演:ミーシャ・ブルックス)」のモデルになった女性です。
マティはハーンに、自分が見た幽霊の話をしてくれました。マティは読み書きを習ったことはありませんでしたが、素晴らしく豊かな描写力、普通以上に優れた記憶力に恵まれていたといいます。マティが語ったのは、次のような幽霊話でした。
毎晩、馬に乗った幽霊が街道を駆け抜けていきます。幽霊の正体は殺された農夫でした。雨の晩には、泥を飛び散らしながら進んできます。幽霊の姿が見えるのは、ある森だけに限られていました。見えたのは、馬に乗った首のない恐ろしい姿でした。そして強い風が吹くと、ろうそくの炎のように消えてしまうのです。
マティから聞いた話を、ハーンは新聞に書いています。マティは幼い頃のハーンと同じように幽霊を近くに感じる女性であり、後にハーンと結ばれる小泉セツのような豊かな表現で怪異を語る「語り部」でもありました。ハーンは怪異の語り部としても、マティを愛していたのでしょう。
※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」
参考:工藤美代子『小泉八雲 漂泊の作家 ラフカディオ・ハーンの生涯』毎日文庫、『妖怪に焦がれた男 小泉八雲全解剖』(宝島社)
(大山くまお)
