『ばけばけ』身を引いた銀二郎を逃がそうとしない松野家が「ヤバすぎ」　史実通りだと籍を抜いてもらえるのは…じ、10年後？

松野家側は銀二郎をあきらめてない件

　2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、1890年に来日し、『知られぬ日本の面影』『怪談』などの名作文学を残した小泉八雲さん（パトリック・ラフカディオ・ハーン）と、彼を支え、「再話文学」の元ネタとなるさまざまな怪談を語った、妻・小泉セツさんがモデルの物語です。
　
　2025年内最後の放送となった第13週65話では、主人公「松野トキ（演：高石あかり）」とよりを戻しに松江に帰ってきたかつての夫「銀二郎（演：寛一郎）」が、彼女との復縁をあきらめて去っていきました。トキを愛しているからこそ、「レフカダ・ヘブン（演：トミー・バストウ）」と一緒になった方がいいと身を引いたのです。

　ただ、トキの養家・松野家の家族は、東京で社長として成功し月200円は稼ぐようになった銀二郎との再婚を期待していたため、かなりショックを受けていました。養祖父「勘右衛門（演：小日向文世）」は、頭を下げた銀二郎に対し「もう逃がさんぞ」とまで叫んでいます。また、第62話では養父「司之介（演：岡部たかし）」の口から、まだ松野家に銀二郎の籍を残していたことも明かされていました。

　65話放送後には失恋した銀二郎に対し、視聴者から「銀二郎さんと松野家の縁が完全に切れたことだけは喜ばしい（はよ籍抜いたれよ）」「銀二郎さんの籍はすんなり抜けさせてもらえないような…松野家が厄介だわ」「ところで銀二郎の戸籍問題は有耶無耶なまま？勘右衛門の『もう逃がさんぞ』はやっぱり次の跡取りができるまでそのままということなのだろうか」といった心配の声が、多数出ています。

　そんななか、松江に拠点を置く顕彰・研究団体「八雲会」の公式X（旧：Twitter）は、

「明治34（1901）年、小泉セツと小泉八雲の次男・巌が、セツの養母・稲垣トミの養嗣子となりました。これに併せ、出奔後も稲垣家の戸籍に名を留めていたセツの前夫・為二が、失踪を理由に除籍されました」

　と、史実の情報をポストしました。

　銀二郎のモデルであるセツさんの最初の夫・為二さん（旧姓：前田）が、銀二郎のようにセツさんの養家・稲垣家を出奔したのは1887年のことで、1890年1月には正式な離婚が成立しています。この際、セツさんが戸籍上は小泉家に復籍したことも、さまざまな書籍で語られていました。ただ、婚姻は解消されても、為二さんは10年以上も稲垣家の養子のままだったようです。

　また、為二さんがセツさんとよりを戻そうとしたという記録はありませんが、彼が社長として成功を収めたのは事実でした。1897年1月、稲垣家の親戚の高木苓太郎さんという人物が、当時東京にいたセツさんと養父・金十郎さんあてに、鳥取で為二さんと偶然再会したことを綴った手紙を送っています。

　その手紙の内容によれば、為二さんは岡山で会社を営み、大金を得ていたそうです。そして、高木さんは「稲垣家を為次（為二）君に御相続の思召は無御座候や」と、まだ籍が残っている為二さんに稲垣家を継がせるつもりがあるか、意向を聞きたいと書いています。

　為二さんにはすでに新しい家庭もあったようですし、セツさんも1891年夏頃に八雲さん（1896年2月に帰化）と結婚していたため、もちろん彼が稲垣家を継ぐことはありませんでした。ただ、前述のとおり、正式に稲垣家と為二さんの縁が切れたのは、それから4年後のことです。いざというときは、為二さんに家督を継がせるつもりだったのかもしれません。

　そして、その後、高木さんから手紙が届いた1か月後の1897年2月に生まれた小泉家の次男・巌さんが、幼いうちに稲垣家の養子になることが決まります。巌さんは、京都帝国大学を卒業するほどの秀才に成長し、結婚して3人の子供も作りました。

　トキのことをあきらめた銀二郎ですが、史実通りなら後10年ほどは松野家の人間として生きることになります。そうなると、会社経営でも何か不都合が生じるかもしれません。司之介たちが彼の籍を抜いてくれればいいのですが、果たしてどうなるのでしょうか。

※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」

参考書籍：『八雲の妻　小泉セツの生涯』（潮出版社）