『ばけばけ』ヘブンに憧れて記者になった「後輩」のイライザは11歳年下? モデル人物は「ハーンの心の恋人」だったが今後どうなる
朝ドラ『ばけばけ』では、ついにヘブンのかつての同僚・イライザが松江にやってきました。
先に日本に来ていたイライザのモデル

2025年後期のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、1890年に来日『知られぬ日本の面影』『怪談』などの名作文学を残した小泉八雲さん(パトリック・ラフカディオ・ハーン)と、彼を支え、「再話文学」の元ネタとなるさまざまな怪談を語った、妻・小泉セツさんがモデルの物語です。
第13週では、主人公「松野トキ(演:高石あかり)」の未来の夫「レフカダ・ヘブン(演:トミー・バストウ)」のかつての同僚「イライザ・ベルズランド(演:シャーロット・ケイト・フォックス)」が、松江にやってきました。ヘブンが手紙で書いていた通り、温かい春になってから来たようです。
ヘブンとイライザの関係はさまざまな考察がされていましたが、63話であくまでも同僚で恋人ではないことが分かりました。また、イライザはヘブンにあこがれて新聞記者になったこと、彼女がヘブンに日本行きを勧めたことも明かされています。
イライザのモデルであるエリザベス・ビスランドさんは、ラフカディオ・ハーンさんの11歳年下の女性ジャーナリストで、1882年に21歳でニューオーリンズのタイムズ・デモクラット社に入りました。当時、同社で文芸部長をしていたハーンさんの記事に影響され、彼にあこがれて入社したそうです。
文筆の才能だけでなく、たぐいまれな美貌の持ち主としても知られたビスランドさんは、女性ジャーナリストとして名をはせ、社交界でも有名になっていきました。彼女は1887年頃にはニューヨークに移住してさまざまな媒体に寄稿し、有名な雑誌「コスモポリタン」の編集者になります。
そして1889年11月、ビスランドさんは「コスモポリタン」の企画として世界一周旅行に出発しました。人気小説『八十日間世界一周』(著:ジュール・ヴェルヌ)をモデルにした企画で、同じく女性ジャーナリストのネリー・ブライさんとどちらが早く世界を回れるか競う、というものだったそうです。
最終的にブライさんに負けてしまったものの、小説より早い76日と19時間で世界を一周したビスランドさんは、その旅行のなかで日本の横浜を訪れ、「コスモポリタン」に12ページにわたる写真入りの日本の特集記事を執筆しました。ビスランドさんはその後、1890年4月に横浜に到着したハーンさんの紹介状も書いています。
イライザも公式サイトで「聡明で、世界を飛び回る行動力を兼ね備えた“パーフェクトウーマン”」と紹介されており、まだ語られていないもののビスランドさんのように世界旅行を経験しているのかもしれません。
ちなみに、ハーンさんとビスランドさんが直接的な恋仲になったことはなく、ハーンさんがセツさんと夫婦になった同年の1891年に、ビスランドさんもニューヨークでチャールズ・ウェットモアさんという弁護士と結婚しています。ただ、ふたりはその後も長きにわたって手紙のやり取りを続けていました。
そして、ビスランドさんはハーンさんの死後の1906年、自ら編集も担当した伝記『ラフカディオ・ハーンの生涯と書簡(The Life and Letters of Lafcadio Hearn)』を発表しています。また、後年は日本を訪れ、セツさんとも親交を持ったそうです。
ハーンさんのひ孫で小泉八雲記念館の館長でもある小泉凡さんは、著書『セツと八雲』で「12年前、日本へ行ってほしい、あなたが書いた本が読みたいから、と言ったのを思い出す。もうすぐ日本についての十冊目(『骨董』)が出版される」(1902年、ハーンさんからビスランドさん宛)といった手紙を引用し、「ふたりの間柄には機微があり、相思相愛の『心の恋人』という趣が感じられます」と語っていました。
ビスランドさんと違い、ヘブンが生きているうちに日本にやってきたイライザが彼のことをどう思っているのかは気になるところです。ヘブンに「同僚」と紹介されて、「大切な人か大切な友達と言ってよ」と言っていた彼女は、トキの「恋敵」になるのでしょうか。
※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」
参考書籍:『セツと八雲』(著:小泉凡/朝日新聞出版)、『小泉セツ 八雲と「怪談」を作り上げたばけばけの物語』(三才ブックス)、『小泉八雲 漂泊の作家ラフカディオ・ハーンの生涯』(著:工藤美代子/毎日新聞出版)
(マグミクス編集部)

