話題に出すのもムリ?『ばけばけ』朝ドラでは描けなかった「ヤバすぎる話」 タエ様のモデル「12歳の初婚」で体験した事とは
最終週の放送を終えた『ばけばけ』では、朝ドラでは描けない生々しい話がありました。
三之丞も銀二郎も永見も…

堂々の最終回を迎えた連続テレビ小説『ばけばけ』は、『怪談』『知られぬ日本の面影』などで知られる文豪・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と、彼の再話文学の元となる数々の怪談を語った妻・小泉セツをモデルにした物語です。本作は主人公「松野トキ(演:高石あかり)」の幼少時代から夫「レフカダ・ヘブン(演:トミー・バストウ)」の死まで、基本的に史実に忠実なストーリーが描かれていますが、「朝ドラでは描きづらい話」は、変えられたり、カットされたりしていました。
小泉夫妻に関する資料は、ハーン本人の著作や新聞記者時代の記事、知人との書簡、セツが遺した回想録『思ひ出の記』、長男・小泉一雄の著作、その他ハーンの生徒や同僚などの関係者、後世の研究家による書籍など多岐にわたって存在しています。
『ばけばけ』ではそれらから分かる史実に基づいて、さまざまなエピソードが作られました。「第1週でトキが八重垣神社で『恋占い』をした時点で、外国人と結婚することが予言されていた」「ヘブンが糸こんにゃくを虫に見えると怖がった」「ヘブンが死ぬ数日前に庭の桜が返り咲いた」など、ドラマを盛り上げるために付け足されたように見える描写も実話がベースです。
ただ、関連資料を読み進めると、朝ドラでは描くのが難しい、描いてほしくないような逸話もあり、当然ながらそこはカット、改変されています。いくつか例を挙げると
・トキの弟「雨清水三之丞(演:板垣李光人)」のモデル・小泉藤三郎は姉の仕送りに頼り続け、小泉家の先祖代々の墓を売り払って縁を切られた
・トキの元夫「銀二郎(演:寛一郎)」のモデル・前田為二は、大阪まで出奔し、迎えにやってきたセツを冷たくあしらった。セツは橋の上から投身自殺も考えたが、思いとどまった
・ハーンが松江から熊本へ出発した1891年11月頃、松江市内ではコレラが流行し松江中学の生徒も何人か亡くなっていた
・松江から熊本に連れて行った専属車夫(大西信満演じる「永見剣造」のモデル)が、ハーンにもらった松江帰省用のお金を無駄遣いしクビになった
・ハーンは息子たちの教育でたびたび「スパンク(尻叩き)」をしていた。セツも一度怒ると収まりがつかない性格で、一雄に突進を食らわせたこともあった
・ハーンは用心のために大型のコルト式拳銃を枕の下に置いて寝ていた
・ヘブンのアメリカ時代の元妻「マーサ(ミーシャ・ブルックス)」のモデルであるアリシア・フォリー(愛称:マティ)は、ハーンの死後にかつての妻として遺産を求める裁判を起こすも敗訴した
などのエピソードがありました。ほかにも興味深い実話は多々あるので、『ばけばけ』と比較しながら書籍を読むのも楽しいでしょう。
そしてセツ、ハーンの関連人物の逸話のなかでも特に凄絶なのが、まだ江戸時代だった頃、トキの実母「雨清水タエ(演:北川景子)」のモデル・小泉チエが12歳で初婚を迎え、その初夜で体験した事件です。
1837年3月に生まれたチエは松江藩家老・塩見増右衛門の娘で、「御家中一の御器量」と言われるほどの美女でした。彼女はセツの父・小泉湊と結婚する前の1850年2月、わずか12歳で「さる高位の侍」の家に嫁いでいます。
松江藩からも高額の祝儀が出て、婚礼の儀は豪勢に行われますが、その晩にチエの夫が愛人だった腰元(侍女)と庭で心中するという惨劇が起きました。腰元は首を皮一枚つながった状態で打ち落とされ、夫は腹と首筋を斬って自害しているという凄惨な現場だったそうです。
チエは新郎が寝所に現れず、庭で物音が聞こえたため、冷静にそのことを姑に報告しに行ったそうで、その後に夫らの惨たらしい死体を見ても、全く動じなかったといいます。彼女はその後、実家に戻りましたが、事件での堂々とした対応が周囲から絶賛されたそうです。その翌年の秋、チエは14歳で小泉家に嫁ぎました。
一方、心中した夫に関しては、その家の親戚たちが家名を汚したと死体に向かって罵り、葬式もせずに屋敷の裏門から近くの寺まで運び出され葬られたという、武家社会の非情さを感じさせる逸話が残っています。
こちらは、幼少期から物語好きだったセツが、実母に何度も語ってくれとせがんだ話だったそうです。過激すぎて描かれていないだけで、『ばけばけ』のトキもタエからこういった体験談を聞いていたのかもしれません。
※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」
参考書籍:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(潮出版社)、『父小泉八雲』(小山書店)、『ラフカディオ・ハーン 西田千太郎 往復書簡』(八雲会)、『父「八雲」を憶う』(千歳出版)、『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』(中央公論新社)
(マグミクス編集部)
