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『ばけばけ』モデル・小泉セツ 著書『思ひ出の記』のなかで語っていた「夫に無理をさせてしまった」出来事

『ばけばけ』最終週では、トキがヘブンとの思い出を記録に残そうとしています。

フロックコートは大嫌いだった

『連続テレビ小説 ばけばけ Part1 NHKドラマ・ガイド』(NHK出版)
『連続テレビ小説 ばけばけ Part1 NHKドラマ・ガイド』(NHK出版)

 連続テレビ小説『ばけばけ』第25週124話では、主人公「雨清水トキ(演:高石あかり)」が、夫「雨清水八雲(レフカダ・ヘブン/演:トミー・バストウ)」との思い出を語り、記録に残すと決めました。しかし、自分がヘブンを日本に縛り付け、彼の人生を台無しにしてしまったと自責の念に駆られるトキの口からは、ネガティブな言葉が次々に出てきてしまいます。モデルの小泉セツの『思ひ出の記』にも、「後悔の念」とも思える記述がありました。

 トキは123話でヘブンのかつての同僚「イライザ・ベルズランド(演:シャーロット・ケイト・フォックス)」から、最後の作品『怪談』がベストセラーにはなっていないこと、作家としてのヘブンの晩年を台無しにしたと責められ、大きなショックを受けています。

 イライザのモデルであるアメリカの女性ジャーナリスト、エリザベス・ビスランドは、1889年に雑誌「コスモポリタン」の世界一周旅行の企画で、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)よりも先に日本の横浜を訪れていた人物です。

 彼女はハーンが亡くなって間もない1904年10月1日に、セツ宛に彼女と家族を気遣う手紙を書いていました。自分が小泉家のためにできることはないかと尋ねていたビスランドは、2年後の1906年に自ら編集も担当した伝記『ラフカディオ・ハーンの生涯と書簡(The Life and Letters of Lafcadio Hearn)』を発表し、その印税をセツや子供たちに全額贈っています。

 セツのハーンについての回顧録『思ひ出の記』は、最初に『ラフカディオ・ハーンの生涯と書簡』に収録され、1914年にハーンの帝大時代の教え子・田部隆次の伝記『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』に日本語版が載って、国内に広まりました。セツが口述で語った内容をまとめたのは、ハーンの資料探しも手伝っていた松江出身の歴史学者・三成重敬という人物です。

 1904年以降もビスランドとセツは頻繁に手紙のやり取りを続け、1911年にビスランドが夫のチャールズ・ウェットモアと2度目の日本旅行をした際、彼女たちは西大久保の家で初対面を果たしています。

 史実では、ビスランドがセツを責めたというような記録はありませんが、セツが語った『思ひ出の記』を読むと、『ばけばけ』最終週で語られているトキの後悔の念の元となったであろう記述が見受けられます。

「神戸から東京に参ります時に、(ハーンは)東京には三年より我慢むつかしいと私に申しました。ヘルンはもともと東京は好みませんで、地獄のようなところだと申していました。東京を見たいと云うのが、私の兼ての望みでした」

「燕尾服は申すまでもなく、フロックコートなど大嫌いでした。ワイシャツや、シルクハット、燕尾服、フロックコートは『なんぼ野蛮の物』と申しました。(中略)私が大層頼みましてやっとこしらえて貰ったのでございます」

「これを着る時は又大騒ぎです。いやだいやだと云うのです。『この物、私好きない物です、ただあなたのためです。いつでも外にの時、あなた云う、新しい洋服、フロックコート、皆私嫌いの物です。常談でないです。本当です』など云っていやがりますけれど、私は参らねば悪いであろうと心配しまして、気の毒だと存じながら四五度ばかり勧めて着せました」

 ハーンは1896年9月から帝大の講師の仕事を得て、月収400円になりましたが、彼の我慢の上に家族の裕福な生活が成り立っている側面がありました。セツは『思ひ出の記』のなかで、「ヘルン(ハーン)は私共妻子のためにどんなに我慢もし心配もしてくれたか分りません。気の毒な程心配をしてくれました。帰化の事でも好まない奉職の事でも皆そうでございました」と語っています。

 実際ハーンは、西田千太郎(「錦織友一」のモデル)ほか知人たちへの手紙で、妻子がいなければ日本を離れたいという気持ちを何度か綴っていました。ハーンの帰化の一因になった長男の一雄も、1931年の著書『父「八雲」を憶う』で「放浪性に富んだ父のことです、子がなかったら多分妻を連れて日本を後に世界へ旅から旅へと出たかも知れません」と書いています。

 妻子のためにハーンが「我慢」をしていたのは間違いありませんが、彼が家族を愛していたのも、さまざまな資料から分かる紛れのない真実です。ヘブンも同様でしょう。最後にトキがそれに気づいて前を向けるのか、最終125話に注目です。

参考書籍:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(潮出版社)、『父「八雲」を憶う』(千歳出版)、『ラフカディオ・ハーン 西田千太郎 往復書簡』(八雲会)

※高石あかりさんの「高」は「はしごだか」

※本文を一部修正しました(2026年3月26日14時17分)

(マグミクス編集部)

【画像】え、「可愛すぎる」「みんな目鼻立ちがキレイ」 コチラが小泉八雲・セツの子供たち(3男1女)の幼少期の写真です

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