『ばけばけ』イライザのモデル人物は小泉セツにどう接した? 彼女の献身と日本びいきとは
『ばけばけ』最終週では、イライザのトキへの反応が、物議をかもしているようです。
イライザのおかげで回顧録が作られることになったが

連続テレビ小説『ばけばけ』第25週では、主人公「雨清水トキ(演:高石あかり)」が、亡き夫「雨清水八雲(レフカダ・ヘブン/演:トミー・バストウ)」の人生を台無しにしてしまったと、後悔の念にさいなまれています。理由はヘブンのかつての同僚「イライザ・ベルズランド(演:シャーロット・ケイト・フォックス)」が、トキがリクエストした彼の最期の著作『怪談』に関して、彼女を激しく責めたことにありました。イライザにははっきりとしたモデルがいますが、実際にドラマのようなことを言ったのでしょうか。
123話では来日したイライザが、『怪談』が売れ行きも評判もないことを語りました。そして、トキが「ヘブンに私が読める本をお願いした」と伝えると、イライザは「彼はベストセラー作家として大事な時期だったのよ! 彼は終わった、と言う人たちを黙らせる最後のチャンスだったのよ!」「信じられない…。台無しだわ」と涙を浮かべながらまくし立てています。
これはイライザが作家としてのヘブンに期待し、深く愛していたからこその反応でしょうが、視聴者からは「遺族に言うことじゃないでしょ」「イライザさん…言い過ぎだよ…気持ちは分からんでもないけどさ」「イライザ、多分嫉妬もあるんだろうな。妻の願いを聞いて出来た最後の作品に」といった声が出ていました。
トキはショックを受けていますが、イライザは通訳をした「錦織丈(演:杉田雷麟)」に「おトキさんにしか書けないものがあるはずだから」と、「ヘブンとの回顧録」を書かせるよう促してもいます。厳しい態度ではありますが、ある種トキのことを認めてもいるようです。
イライザのモデルで、アメリカの女性記者であるエリザベス・ビスランドは1889年に雑誌「コスモポリタン」の世界一周旅行の企画で、ヘブンのモデル・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)よりも先に日本の横浜を訪れ、特集記事を書いた人物です。
ニューオーリンズの新聞社の上司だったハーンは、1890年の来日後も彼女と書簡のやりとりを続け、小泉セツと家庭を築いた後も、「何度も何度もあなたに手紙を投じた。(中略)たびたびあなたが気に入るような書物を書きたい」(1900年)、「12年前、日本へ行ってほしい、あなたが書いた本が読みたいから、と言ったのを思い出す。もうすぐ日本についての十冊目(『骨董』)が出版される」(1902年)といった手紙を送っています。
ビスランドも鉄道会社社長のチャールズ・ウェットモアという男性と1891年10月に結婚していましたが、何度もハーンの健康や仕事のことを気遣う手紙を送っていました。ふたりが恋人だったことはありませんが、ハーンの長男・一雄は著書『父小泉八雲』で「(父と)エリザベス・ビスランド女史との親交は、あるいは一種の恋愛ともいえるかもしれぬ。しかし、それは白熱の恋ではない。沢辺の蛍のごとき清冽な恋である」とも語っています。
そんな風にハーンと深い絆で結ばれていたビスランドは、彼の死後、妻のセツにどのように接したのでしょうか。
実際のところ、ビスランドはハーンが亡くなって間もない1904年10月1日、セツ宛に丁寧な手紙を送っていました。自分が小泉家のためにできることを聞いたビスランドは、ハーンと知人との書簡を集め、1906年に伝記『ラフカディオ・ハーンの生涯と書簡(The Life and Letters of Lafcadio Hearn)』を完成させました。ビスランドはその印税を小泉家に全額贈っています。
そして、ビスランドからの依頼で夫についての回顧録を頼まれたセツは、ハーンの資料探しも手伝っていた松江出身の歴史学者・三成重敬という人物にも説得されて『思ひ出の記』を口述で語り、三成にまとめてもらいました。『思ひ出の記』はまず『ラフカディオ・ハーンの生涯と書簡』に一部が収録され、1914年にハーンの帝大時代の教え子・田部隆次による評伝『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』に日本語版が載って、国内の読者の目にも触れるようになります。現在は単体で新装版も売られるほど、読み継がれてきた名著です。
また、ビスランドは1904年以降も翻訳を交えてセツと手紙のやり取りを続け、一雄の教育のことなども語っていました。そして、ビスランドは1911年に夫と2度目の日本旅行をした際、西大久保の小泉家に寄って、ようやくセツと対面しています。
前述の田部はこのとき小泉邸でビスランドと会っており、『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』のなかで、彼女がハーンと同じく日本びいきで刺身と漬物を遺さず食べ、滞在中に生け花や茶の湯を習得したことまで述懐していました。その後、ビスランドは生涯で四度来日し、アメリカの自宅に日本風の装飾、家具なども取り入れたそうです。
ビスランドが『怪談』のことをどう思っていたのかは分かりませんが、少なくとも『ばけばけ』のように未亡人を責めたという記録はありませんでした。ただ、彼女のおかげでセツの『思ひ出の記』が世に出たのは確かであり、それを踏まえてイライザがトキを焚きつけて回顧録を書かせることになるという展開になったと思われます。
残り1話ですが、イライザもビスランドのようにヘブンの伝記を作り、トキの語った内容を世界中に広めてくれるのでしょうか。最後の最後にはトキと友好な関係になれるのかも、気になります。
※高石あかりさんの「高」は「はしごだか」
参考書籍:『八雲の妻 小泉セツの生涯』(潮出版社)、『セツと八雲』(朝日新聞出版)、『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』(中央公論新社)、『父小泉八雲』(小山書店)
(マグミクス編集部)
