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『ばけばけ』主題歌「笑ったり転んだり」 モデル小泉セツの『思ひ出の記』が与えていた強い影響とは

『ばけばけ』最終回ではトキの語りで「思ひ出の記」が完成しました。

西向きの部屋、壊さぬように

『連続テレビ小説 ばけばけ Part1 NHKドラマ・ガイド』(NHK出版)
『連続テレビ小説 ばけばけ Part1 NHKドラマ・ガイド』(NHK出版)

 連続テレビ小説『ばけばけ』の最終回、第25週125話では主人公「雨清水トキ(演:高石あかり)」が、夫「雨清水八雲(レフカダ・ヘブン/演:トミー・バストウ)」との他愛なくも素晴らしい日々を思い出し、彼との思い出を何日も語りました。そして、その内容は『思ひ出の記』という本になります。モデルの小泉セツが夫・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の死後、口述で語って発表された回顧録『思ひ出の記』は、『ばけばけ』主題歌「笑ったり転んだり」にも影響を与えていました。

 セツは「イライザ・ベルズランド(演:シャーロット・ケイト・フォックス)」のモデルである、ハーンの元同僚エリザベス・ビスランドから回顧録を依頼され、『思ひ出の記』の内容を語ったそうです。最初は、1906年に発表されたビスランドによる伝記『ラフカディオ・ハーンの生涯と書簡(The Life and Letters of Lafcadio Hearn)』に、一部が収録される形で世に出ています。

 控えめな性格で本など書けないというセツを説得したのは、小泉家の遠縁の歴史学者でハーンのアシスタントもしていた三成重敬という人物です。彼がセツの話した内容を書き取ってまとめ、その全文はハーンの帝大の教え子・田部隆次による評伝『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』(1914年発表)に収録されて、国内にも広まりました。

 現在は松江にあるハーベスト出版という会社が新装版『思ひ出の記』を出しており、そのなかには初の書籍化となったセツの談話「オヂイ様のはなし」、「幼少の頃の思い出」(元は池田記念美術館所蔵)も収録されています。「オヂイ様」とは、セツの実母・小泉チエの父で、松江藩家老の塩見増右衛門のことです。彼が主君・松平斉貴の法外な贅沢三昧を諫めるためにとった、ある行動のことが書かれています。

 そんな『思ひ出の記』は、『ばけばけ』開始当初から絶賛されてきた夫婦の男女デュオ、ハンバート ハンバートによる主題歌「笑ったり転んだり」にも深い影響を与えていました。『ばけばけ』のガイドブックを読むと、もともと八雲作品をよく読んでいたという夫の佐藤良成さんは、演出の村橋直樹さんからおすすめされた『思ひ出の記』を何度も読み、まずその世界観を大事にしながら作曲をして、あとから歌詞をつけたと語っています。夫婦で対話しているように歌っているのは、制作側からの依頼だそうです。

 また、妻の佐野遊穂さんは、『思ひ出の記』でセツがハーンの執筆を邪魔しないようにそっと見守っている様子が、自分が曲作りに没頭している佐藤さんを横で見ている時と、とても似ていると感じたといいます。

 その『思ひ出の記』のなかでも、特に「笑ったり転んだり」の歌詞に影響を与えていると思われるのは、ハーンが西大久保の家に引っ越す際にセツに言った「西向きに机を置きたい。外に望みはない。ただ万事、日本風に」という言葉や、「箪笥を開ける音で、(ハーンは)私の考こわしました、などと申しますから、引出し一つ開けるにも、そうっと静かに音のしないようにしていました。こんな時には私はいつもあの美しいシャボン玉をこわさぬようにと思いました」といったセツの気遣いの記述です。

 また、重要なキーワード「散歩」は、『思ひ出の記』のなかに21回も出てきていました。セツはハーンの死(1904年9月26日)の2週間ほど前、屋敷の表門を作り直すために方々の家の門を参考に見ながら雑司が谷周辺を回ったのが、夫婦の最後の散歩だったと振り返っています。

※高石あかりさんの「高」は「はしごだか」

(マグミクス編集部)

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