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『ばけばけ』ラフカディオ・ハーンが「蚊になりたい」と言っていた経緯は 著作を読むと

『ばけばけ』最終回ではトキのもとに「蚊」がやってきました。

絶対に殺さなかったという逸話もあるが

『連続テレビ小説 ばけばけ Part1 NHKドラマ・ガイド』(NHK出版)
『連続テレビ小説 ばけばけ Part1 NHKドラマ・ガイド』(NHK出版)

 2026年3月27日、NHKの連続テレビ小説『ばけばけ』が125話で完結しました。最終回では、主人公「雨清水トキ(演:高石あかり)」が亡き夫「雨清水八雲(レフカダ・ヘブン/演:トミー・バストウ)」との思い出を振り返るなかで、彼女の手に「蚊」が止まります。ヘブンが「生まれ変わったら蚊になりたい」と言っていたのを思い出したトキは、それから三日三晩に渡って回顧録「思ひ出の記」の元となる話を語りつくしました。すでにいくつかニュースが出ていますが、蚊のエピソードはヘブンのモデル・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が、実際に「蚊になりたい」という旨の文を書いていたことが基になっています。

 具体的に言うと、ハーンは亡くなった1904年の4月に発表した代表作『怪談』に収録された「虫の研究」のなかの「蚊」という項で、蚊への生まれ変わりについて語っていました。ハーンが虫に強い興味を持っていたことは有名で、妻のセツも「思ひ出の記」で彼が虫好きであったことを振り返っています。

 また、帝大の教え子の田部隆次は、1914年発表の伝記『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』のなかで、「普通の虫類でヘルンの愛さないものはなかった。蠅や蚊は払うだけで殺した事のないのは東京時代ばかりではなく、ニューオーリンズ時代(1877年~87年)からであった」「暑いニューオーリンズでは蠅も蚊も多かった。(中略)しかしヘルンはそっと払うだけであった」と、彼がけっして虫を殺そうとしなかったことを語っていました。

 しかし、「虫の研究」を読んでみると、ハーンは「蚊」の冒頭で「わたしは自分の身を守るために、ハワード博士(アメリカの昆虫学者、リーランド・オシアン・ハワード)の本『蚊』を読んでいる。蚊にさんざんひどい目に遭わされているのだ」と意外な一文を書いています。元来虫好きのハーンを苦しめていたのは、「全身に銀の斑が入って銀の縞目がある」1種だけだったそうです。その蚊に刺されると、電気で焼かれるような痛みがあると書かれていました。

 珍しく蚊のことを「敵」と記述していたハーンは、ハワードの本を参照して、蚊が育つよどんだ水に石油か灯油を少量入れて、蚊を近所から「根絶」する方法についても触れています。しかし、自分を苦しめる蚊が「仏教徒の墓地」、そこにある水溜やさらに大きい水槽、花を生けるコップなどからやってくると発見した彼は、東京中の墓地の水がある場所に灯油を入れる費用・手間も考えて、蚊を根絶やしにするのは不可能だと結論付けました。「この街を蚊から解放するには、昔からの墓場を取り壊す必要があろう」とまで書いています。

 そして、ハーンは仏教の輪廻転生の教えをもとに、蚊のなかに生前の過ちから「食血餓鬼(じきけつがき 血を飲む鬼)」に堕ちた死者の生まれ変わりもいるかもしれないとも語っていました。最後に、ハーンは自分が死んだら古風な寺に埋葬してほしいと書き、「(私が)食血餓鬼の境涯に堕ちる可能性を考えると、竹の花立てかミズタメの中に生まれ変わって、そこからこっそりと、かそけき辛辣な歌を歌いながら、知っている誰かを刺しに行く機会を持ちたいものだと思う」と締めくくっています。

 ハーンは晩年、体調の悪化を感じ、セツや子供たちに自分が死ぬ時期やその後のことについて頻繁に語っていたそうです。モデル人物が死の5か月前に発表された『怪談』のなかで、蚊になって「知っている誰か」を刺しに行きたいと語っていたため、『ばけばけ』最終回のあの場面が生まれたのでしょう。

※高石あかりさんの「高」は正式には「はしごだか」

参考書籍:『怪談』(光文社、訳:南條竹則)、『小泉八雲 ラフカディオ・ヘルン』(中央公論新社)

(マグミクス編集部)

【画像】え、「絵上手すぎ」「プロやん」「リアルすぎる」 コチラが小泉八雲が自分で描いた「虫のイラスト」です

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