ドラクエのせいで「元と違う」認識が広がってるモンスターたち 古代ギリシャの「キメラ」を見てみたら
鳥山明先生がデザインした『ドラクエ』のモンスターは、「元ネタ」から飛躍した姿をしているものも少なくありません。その代表例である「キメラ」を解説します。
古代ギリシャの怪物だったはずだけど…全然違う

ロールプレイングゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズに登場するモンスターたちは、実に魅力的です。鳥山明先生の類まれなデザインセンスによって、従来の「モンスター」のイメージを覆す、実に多様で可愛らしいキャラクターたちが世に放たれました。
一方で「元ネタ」があったモンスターが、鳥山先生のデザインによって、全く違ったビジュアルに再構成されたパターンもいくつかあります。「ドラクエ」が国民的なものになるにつれ、「元ネタ」が霞んでしまった例も少なくありません。
代表的なものが、「スライム」でしょうか。そもそもは「粘液」「ドロドロしたもの」を指す言葉であり、「ドラクエ」以前のファンタジー作品でも、そのような姿の怪物として描かれてきました。
ところが「ドラクエ」以降、スライムと聞けば、あのプルプルした水色の肉まん型のビジュアルが浮かんでくるようになったのです。
こうした「元ネタ」と「ドラクエ」での描かれ方が、最もかけ離れているモンスターとして「キメラ」が挙げられます。
初代『ドラゴンクエスト』から登場しているこのモンスターは、ハゲワシの頭部に、ツチノコのような下半身という姿です。これがまた、実にシンプルながらも、躍動感のある傑作モンスターでした。
その元ネタはというと、ギリシャ神話に登場する「キメラ(キマイラ)」です。ホメロスによる古代ギリシャ最大の叙事詩『イーリアス』では、ライオンの頭にヤギの身体を持ち、大蛇の尾をもつ怪物として登場します(ライオンとヤギ両方の顔がある場合も)。
ライオンの頭にしろヤギの頭にしろ、ドラクエのキメラには元ネタの要素がほとんどありませんでした。
こちらは「キメラ」という言葉を、「合成生物」という広義の意味で解釈したものかもしれません。それよりも、今現在キメラからイメージするものが、ライオンとヤギの怪物からハゲワシのモンスターに取って代わっているという事実が、日本の表象史においても重要に思えます。
ちなみに『ドラゴンクエストIX』では、名称もギリシャ神話寄りの「キマイラロード」というモンスターが登場しました。ところがこのキマイラロードもまた、本家キマイラとはかけ離れたビジュアルをしています。
キマイラロードは猿のような顔に、ドラゴンの翼があるモンスターです。一応、ライオンのタテガミ要素は入っています。ただ色違いに「じごくのヌエ」という、日本古来の合成獣の妖怪「鵺」がモチーフのモンスターがいるため、やはり「合成生物」という広義の解釈でデザインされているのではないでしょうか。
「ドラクエ」という大きな物語は、古代ギリシャの怪物の姿をも大きく変容させた……そう思うとなお、本シリーズの重要性が分かります。
(片野)
