「原作改変」を心配してたら 『魔女の宅急便』原作者と宮崎駿が行った天才の対話とは
『魔女の宅急便』は児童書の原作と、ジブリ版では展開や雰囲気が大きく異なります。原作者に対して、宮崎駿が行った異次元の「対話」方法を紹介します。
車で15分のところを1時間かけてゆっくり回った驚きの理由

原作『魔女の宅急便』(著:角野栄子)と、ジブリ映画『魔女の宅急便』(監督:宮崎駿)、その内容はかなり異なっています。
魔法使いの少女「キキ」が相棒の「黒猫ジジ」を連れ、生まれ故郷を離れて、コリコの町にあるパン屋さんで空飛ぶ宅急便屋を開業する、という流れは変わりません。ただ、宮崎駿監督はこの原作を長編アニメーションにする際に、大規模な改変を行なっています。それこそ、キャラクターデザインからコンセプト、脚本、ラストの展開に至るまで、かなり原作から逸脱していました。
たとえば、宮崎監督はこの映画における魔法のあり方を「彼女(キキ)の持っているある種の才能というふうに、僕は限定して考えました」とインタビューで述べており、原作と比べてリアリティーの強い描き方をしています。
原作者の角野栄子さんは、こうした改変の流れを受け、当然ながら不安を覚えました。自分の分身である作品が、まるで違うものになってしまったら大変です。
そして、角野さんが不安そうにしている、という情報は宮崎監督の耳にも入ります。これはまずいということで、宮崎監督は角野さんを吉祥寺のスタジオまで送るべく、車で迎えにいきました。
一般的な感覚ならば、角野さんをすみやかにスタジオの応接間に通し、そこで改変の経緯や意図、この映画への熱い想いなどを直接説明するところでしょう。しかし、さすが宮崎監督というべきか、その対応は初手から違っていました。彼は、通常15分あれば到着するはずの道筋を、あえて遠回りするように運転していきます。
いったい、何が目的だったのかというと、監督は角野さんにスタジオ付近の美しい自然、緑豊かな場所を、ひとつひとつ案内していったのです。
そして、悠々と1時間ほどかけてスタジオジブリに到着した時には、不思議なことに宮崎監督と角野さんの間にあった緊張感は、かなり緩んでいたといいます。
この車にはプロデューサー(補佐)の鈴木敏夫さんも同乗していました。当時のことを振り返り、鈴木さんは「宮崎駿という人は、計算じゃなく、本能でそういうことができてしまうんです。」と評しています。
もちろん角野さんも全てに納得したわけではないでしょうが、この「緑豊かな場所を案内する」という究極の「対話」には、少なからず心を動かされたのでしょう。傑作を生みだした天才同士、通じる部分があったのかもしれません。
参考書籍:『ジブリの教科書5 魔女の宅急便』(文藝春秋)
(片野)
