音もなく机に乗る猫 飼い主の心配は作業妨害…どころではなく若干”ホラー”
漫画家の迷子さんによる描き下ろしエッセイ。音もなく突然、作業机に乗ってくる愛猫に対して迷子さんが思ったこととは?
猫との暮らしは上手に…

漫画家の迷子さんによる描き下ろしエッセイ。
気配もさせずに突然、作業机に乗ってくる愛猫に迷子さんはびっくり! そして、想像をめぐらせたこととは……。
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作業机に猫が乗ってくる。
音もなくいつのまにか隣にいて、いきなり作業中の手元をのぞき込まれるので大変に驚く。驚きすぎて原稿に線を引いてしまったことも一度や二度ではない。部屋に入ってきたことにも、すぐ後ろに忍び寄ってきたことにも、ジャンプしたことにすら気が付かなかった。机の高さは当然体長以上はある。まったくすさまじい身体能力だ。
猫がその気になれば、自分はあっという間に爪で喉を裂かれてしまいそうだ。それは犬でも鳥でも虫でも同じだろう。牙で噛み千切られ、くちばしで眼球を突かれ、集団で刺され食い破られる。ヒッチコックの『鳥』は、今見たって十二分に怖い。動物たちの多様な攻撃方法を見ていると、よくぞ人間は生き残ってこれたなと思う。それどころか何種も絶滅にまで追いやっているのだから、こっちはこっちですさまじいものだ。
そう考えると、牙や爪をおさめ争わずに別種の隣にいられることも能力だろうか。敵を作りたがる人間の悪い癖で単純な善悪に割り振りたくもなるが、それほど簡単な話でもないだろう。それでお互い生きやすくなったり……いや、向こうがどう感じたり考えたりしているのか、それがそもそも人間と同じようなものなのかも一切確認できない。難しい。この辺は考え始めると本当にきりがない。自分が動物の賢さを理解できるほどに賢いとも思えないのだ。止めよう。
せいぜいいつのまにか喉を裂かれていることのないよう、上手に一緒に暮らしていきたいと思う。そうだ、家の中に大きめの虫が入ってきた時わざわざ知らせてくれるのも、親切なのかもしれない。いつかこの同居者が、その親切はいらんやつだなと気が付いてくれたらうれしい。
(迷子)