声優・松来未祐氏の命日 38歳の若さで…症例が少ない難病で急逝
松来未祐氏が演じた吉野家先生とクー子

さて、多くの役を演じておられた松来氏ですが、筆者にとって特に印象深いのが、『ひだまりスケッチ』の吉野家先生と、『這いよれ! ニャル子さん』のクー子です。
吉野家先生は、いい歳の大人にも関わらず主人公たち4人を振り回すキャラクターで、ゆったりのんびりとした世界の中で、この人が出てくると何かが起きるという役割を担っていました。キャラクターソング「プリンセス・ティーチャー!」はもちろん松来さんが担当しており、破天荒な歌詞を楽し気に歌い上げています。当初は年齢不詳のキャラクターだったのですが、原作者である蒼樹うめ先生も「吉野家先生の年齢は松来さんと同い年にしましょう」と決めるほどにキャラクターのイメージにぴったりと合った演技を披露してくれていました。松来氏の逝去と共に、吉野家先生の年齢も38で止まってしまったのも寂しい話です。
そして松来氏の代表的な役としてしばしば名前が挙がるのがクー子です。「クトゥルフ神話」に登場する架空の神「クトゥグア」を擬人化したキャラクターで、当初はニャル子と敵対していたものの、本気を出して超絶かっこいい変身? を遂げたニャル子にしばき倒されてしまいます。実はニャル子に対し極めて強い愛情を抱いており、気を引くためにけんかしていただけで、後に「ニャル子の妻」を宣言するほど際どい性癖のキャラクターを、見事に演じ切ってくださいました。
また、同作品ではオープニングテーマ「太陽曰く燃えよカオス」をニャル子役の阿澄佳奈氏、暮井珠緒役の大坪由佳氏と共に「後ろから這いより隊G」の一員として歌い上げ、「第7回声優アワード」歌唱賞を受賞しています。初めてあの歌詞を見たときの感想を一度伺ってみたいと思っていましたが、その機会は永遠に失われてしまったことが残念です。
いま、改めて思い返しても、松来氏が亡くなられたという知らせはあまりにも唐突で、現実感がないものでした。亡くなられた2015年にも、『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』のアンナ・錦ノ宮や『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』のマジカルサファイアなどさまざまなキャラクターを演じていたからです。しかし『プリズマ☆イリヤ』3期の収録時には既に体調不良は限界を超えており、8話までの収録は終わっていたものの9話以降は台詞の変更とライブラリー音源の編集で対応していたことが明かされています。本当にギリギリまで役者として生き抜いた、松来氏のご冥福を祈らせていただきます。
もっとあなたの演技と歌声を聴きたかった。
(早川清一朗)